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第43話

「あ、ってか竹内さん左利きなんスね。」 「ん?あぁ…。まあ。」 「左利きってフーッフーッ、憧れるんスよねーズルズル。」 食うか話すかどっちかにしろ。 両立を褒められるのは勉強と部活だとか、仕事とプライベートだとか、そういう場合だ。 食いたいなら食え。喋るのはあとでいいだろう。こちらが集中出来なくなる。 「……横書きの物は大体インクが伸びるし手も汚れるぞ。」 「あーっちぃ。それもそっスね。」 ズルズルとラーメンを啜る合間に、佐々木はどうでもいいような事を楽しそうに話してくれる。 笑顔の絶えない理由は、普段からこんな詰まらない事も面白おかしく変換出来てしまうからだろうか。 小さな箱型テレビの野球中継を眺めたり、追加で頼んだ餃子の引っ付いた皮と闘ったりするうちに、徐々にテーブル席は埋まっていく。 気付けば佐々木の分のラーメン丼は空になっていて、決して食べるのが遅い訳ではないとは思うのだが何故か申し訳なさが芽生え始めた。 何度でも言う。こいつは焼肉と米を腹に詰めた状態でコレを食っている。対して俺は昨晩のタルト以来。 ……こうなるから、一人飯が恋しいんだよ。 「ははっ、竹内さんそんな急がなくてもいいっスよww」 「…べふにいほいでない。」 何でそんなに楽しそうなんだお前は。 ガキの喜ぶポイントはやっぱりわからない。 もぐもぐとひたすら口を動かす事にも疲れてきて、残り3割程度を残し、箸を置いたその時だ。 佐々木の箸が俺のラーメン丼に伸びた。 「んんん~!?やば!これ美味すぎっしょ!!」 大きな声が小さな店いっぱいに響く。 …客の視線が痛いんだが。行きつけの店で目立つのは辞めてくれ。これで俺は昼休憩はコンビニ飯一択になってしまったではないか。 っていや、佐々木。それよりもだ。 俺の口をつけた箸が何度もその汁の中に入ったんだぞ、いいのか。 いや、それは気にしない奴もいるか。 別に男同士だし、普通……なのか? 俺が過剰反応しているだけか…。 一瞬頭に過ぎったのは、まるではしゃいだ中学生のような単語。 …間接キスとか。 本当どうしたんだ俺の頭は。 なんて、そんな悩みを気にも留めない佐々木はというと、俺の残りのラーメンを啜ってはその都度大きな声で褒めちぎる。 注文を待っていた客数名が、呪文のように「今あの人が食べてるの」だかなんだか言っているような気がするんだが、気のせいか。 俺の定番メニューは確かに味の保証もするし他のどの組み合わせより美味い自信がある。 あるんだがこれは何というか…。 「アーーイ、兄ちゃん!宣伝ありがとうねい!これよかったら使ってくれい!」 佐々木のベタ褒めに気をよくした店主のおっさんは、10枚綴りのラーメン一杯無料と手書きで書かれた雑すぎるチケットをカウンター越しに突き付けた。 佐々木の元気の良さに影響される大人が、また1人。 「おー!やったあ竹内さん!無料券貰いました!」 「あぁ…。」 俺に渡そうと伸びて来た手を押し返す。 佐々木は不思議そうな顔をしてこちらを見るが、そんなの当たり前だろう。 「お前が貰ったようなものだろう。俺は使えない。」 すると佐々木は、ニヤりと笑って取り出した財布に券を挟んだ。 「じゃあこれは竹内さんとあと5回、ラーメン食いに来れるって事でいいんスね。」 ああもう。 なんでそうなった。

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