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第44話

店主に盛大に感謝されながら車へ戻ると、佐々木の顔はしゅんと湿気って元気を無くしていた。 さっきまではあんなに楽しそうにアーーイのモノマネまでしていたような奴が。 本当に不思議だ。 ラーメンも美味かったと言っていたのに、何が不満だったのだろうか。 もしかして朝から重いものばかりを食っているせいで体調でも悪くなったか。 そりゃお前の責任……いや、連れてきたのは俺。ということは俺のせいか? 「…おい、どうした?」 「へ?あ、ごちそうさまでした! ラーメン取っちゃったのに結局多く払ってもらって申し訳ないっス…。」 見えない尻尾が垂れ下がる。 元気をなくした犬が、猫背で……あぁややこしい。 さっきのとはまた表情が違う気もするんだが、本当に大丈夫か。いよいよ精神状態も含め、体調が心配だ。 もし本当に俺の方が多く出した事を気にしているだけならば、寂しそうな顔…といえばよいのだろうか、あれはしないと思うんだが。 「小銭がなかっただけだから構わない。というか別に俺が出す予定だったし…。」 「それはダメっスよ!俺だって男なんだし毎日バイト入ってるし!格好つけさせてほしいんスよ。」 「………そういうものなのか?」 「そういうもんスよ!」 ニコニコ笑顔のワンコ佐々木が微笑みワンコくらいには戻ったところで、やっとギアをリバースに入れる。 昨夜通った道は、未だ水溜りがそこかしこに残るものの、昨日とは打って変わって視界も良好で。 多少水位は高いが川の流れを見るに問題は無さそうだ。 そう思えば、佐々木の家も随分と近くに感じた。 昨日、渡るのを断念した橋の前に辿り着く。 信号を待ちながら何の気無しに助手席へ目をやると、佐々木がものすごく眉を顰めたとんでもなく険しい顔つきで俺の事を見ていた。 「な、なん……なんだ。」 その勢いの凄まじさと言ったら相当なもので、こいつの犬種はシェパードか土佐犬ではないかと疑う程だ。犬扱いは…変わらない。 デカい猛犬を前に、到底大人とは思えないビビリ方。たったの3文字を1文字ずつ言い直すだなんて、いくら口下手な俺でも初めての経験だ。 俺の反応をいつもの佐々木ならば笑って可愛いなんて言いやがりそうなものだが、(因みに俺は何が可愛いのか1ミリもわからない)今日の佐々木は違った。 「…竹内さんって、男が好きな奴の事どう思います?」 それは俺の知っている佐々木の中では随分と真面目な顔をしていて。 冗談では無いと脳が認識した途端、金縛りにでもあったかのように眼球ですら動かし方を忘れた。

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