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第49話

危うく勃ちかけた部位に気付かぬ振りをし、掴み取ったスマホを睨む。 “佐々木です!” いや、それくらいわかるわ。 思わず突っ込みを入れそうになった所で気が付いた。 佐々木らしき人物からのメッセージは『伊織』という名で届いていたのだ。 伊織…い、お、り…? 佐々木の下の名前だろうか。 女性の名前にもありそうな響きはどこか古風で、どこか新しくて。 綺麗な名前だな…。 トーク画面を開きもせず、通知を見つめたままそんな事を思っていると──。 ピロンッ また音が聞こえた。 “ありがとうございました! ラーメンめっちゃうまかったんで、また行きましょ!!” 笑顔やダイヤがキラキラ光っている絵文字を乱用されれば目がちかちかするのだが。 あぁ、やはりこういうところで年の差を感じるな。 若者はこういう時、既読をつけたらすぐに返さねば文句を言うらしい。 すぐに開いても怖がられるし、開かな過ぎてもいけないらしいが、それなら一体いつ見るのが正解だというのだろうか。 どうするべきか…。開く?…まだ早いか?もう返さなくてもいいか?考えるだけで疲れてきたぞ。 じっとその場に固まり、かれこれ20分くらい経っただろうか。いよいよ諦めてテーブルに戻す方向で纏めたところだったのに、再びスマホが鳴ったのだ。 しかし、今度は一瞬ではなく、ずっと。 な、な……っ、電話?! しかも画面いっぱいに『伊織』と表示されているではないか。 流石にこればっかりは出ないとまずいだろう。早速何か忘れ物があったのかもしれない、だって電話だぞ…。 電話をかけてくるだなんて余程の理由が無い限りあり得ない事だ。 「…はい。」 どういう訳か震える手に気付かれていないことを願う。 『あ、竹内さん?今大丈夫スか?』 「…あぁ。」 先程まで隣同士で顔を見合わせ、会話をしていたというのに。機械越しの佐々木の声は新鮮でもあり、感情を読み取れなくもある。 仕事では毎日他人の分まで電話対応をしているというのに、多分今が一番緊張している。 それが初めて電話をした相手だからなのか、年の離れた若者だからなのか、それとも“佐々木だから”なのか。俺にはよくわからない。

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