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第50話

電話越しの佐々木の声は、普段より砕けていてトーンも高いような気がして…だが本心が見えず怖かった。 いつだってあの笑顔と共に聞いているからだろうか。機械を通した音声だけとなると相手の表情などまるで想像出来ず、気を遣わせていないだろうか、本当は嫌々なんじゃないかといくつもの恐怖が巡ってどうしようもない。 これなら、あのチカチカした絵文字が大量に入ったメッセージを見ていた方が楽だったかもしれない。あれの方が佐々木の表情や感情を思い浮かべる事が出来た。 笑顔にダイヤの連結型なんて、それこそ見慣れたコンビニスマイルの佐々木そのものだ。 仕事とプライベートでは、電話一つでここまでの差があるなんて初めて知った。 毎日のように顔を見て、声を聞いていた筈なのに。耳元というこれ以上無い至近距離で、それも俺だけにしか聞こえない佐々木を受信するなんて考えても見なかった。 そしてそれがこんなにも不安で仕方なくて、心臓が浅い所で鼓動を速めるような苦しさを覚えるなんて、想像も出来なかった。 『たーけうちさん?』 「…………あ、あぁ…すまない。」 耳元で囁く、高校生にしては少し大人びた声色。 名を呼ばれる度にゾクリと何かが背筋を這い上がる感覚。 脚は無意識に膝を擦り、自身の主張を否定した。 遂に身体がどうにかなってしまったみたいだ。 どれもこれも、佐々木のせいで。 まだこの気持ちに名前を付けて保存する勇気はないけれど。 『竹内さん、どう返事しようとか迷ってる気がして思わず電話しちゃいましたっ!』 「……慣れてないんだから…仕方ないだろう。」 『へへっ、だと思いました。マジ可愛いスね。』 「…大人の男に言う言葉じゃないぞ。」 そもそも、お前は好きな奴が他に居るのだろう。 どうして俺にそんな事を言うんだ。お前の軽率な発言で、“好きな奴以外”が何とも思わないとでも? 可能ならば認める事無く生涯を終えたいこの気持ち。 自分には理解し難いと思っていた矢先、俺まで仲間入りといったところだろうか。 いい年をして、高校生の、しかも男に。 始まりだってあり得ない、叶う可能性など無い漠然とした何かを、抱いてしまいそうな気がして。

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