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第60話

ほんの数秒目を閉じていた間に、思った以上に距離を詰めていた法月にビクリと心臓が跳ねる。 が、それ以上に驚いたのは佐々木の笑顔。 確かに口角は上がっているのに、今にも人を殺めそうなドス黒い瞳。たまらずその場に凍りついた。 「あ、いや……これ、は。」 「もしかして見ちゃいけなかったやつっスか?」 「そっ…そんなんじゃ…。」 佐々木の顔は、俺が否定をするたびに険しさを増して。 足が震える。立っているのがやっとだ。 高校生相手にこんなザマ、どう説明がつこう。 「俺これからバイトなんで、そこどいてもらっていいスか?」 佐々木の視線は、俺から隣の法月へと移った。 その途端、何故だか俺を見ていた以上に佐々木の目が怖くなった気がする。 ──いや違う。 笑う事すら、やめたんだ。佐々木が。 佐々木は怒っている。 その理由はわからないけれど、多分すごく怒っていると、それだけは見てわかる。 法月は相変わらず笑みを崩さないが、彼らの間には何やらバチバチと火花が散っているように見えた。 「ああ、申し訳ない。学生にとって大切なお小遣い稼ぎだからね。邪魔をしたよ。」 法月の言葉の選び方は……なんというか あまり普段この男が使うものだとは思えないそれで。 率直な感想としては、わざとらしかった。 まるで俺達社会人と学生である佐々木との違いを知らしめるような、そんな言い回し。 「っはーーぁいそりゃどーも。」 それを佐々木も感じ取っていたのか、彼の話し方もまた棘を持っていて。 間に挟まれた俺の居心地が悪くて仕方がないんだが。顔を突合せた途端喧嘩腰とはどういう事だ。初対面だろう、お前達は。 「…竹内さん。今日終わったら行っていっスか?」 「………ど、こに」 「家。」 「………え、あ……あぁ。」 「へへっあざす。じゃー終わったら連絡するんでー。」 それだけ言うと、佐々木は自転車を止めて店の裏口へと消えていく。 正直、あの顔をした佐々木の申し出を断れば俺の命が危うい気がして、反射的に頷いていた。 しょうがないんだ。 半強制みたいなものだろ、こんなもの。 「…随分と……元気な子供ですね。」 一方法月の笑顔は1ミリたりとも崩れていない。 幼い頃的屋で買ったお面のように。

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