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第67話

稀に佐々木はワンコの舎弟ではなくなる時があって、そうなると途端に俺は身動きが出来なくなる。 そう。完全にビビっているわけなのだが、そこは持ち前のポーカーフェイス…という名のほぼほぼ死んでいる表情筋のお陰で難を逃れてきていた。 ……つもりだったのに。 「あれ?なんか様子変ですね?」 どうしてそれが通用しないんだ。 「別に何も変じゃないだろう。俺が座りたいから退けって言っているんだ。」 「あ~!そういう事!」 そうそう。そういうことだから早く──。 「じゃ、ちょっと寄るんでどうぞ!」 ……。 違う、そうじゃない。 佐々木は上体を起こし、真ん中より少しだけ右側に座り直した。再び長い脚をこれ見よがしに伸ばしてスマホを触る。 何故そこから退かないのだ、俺の言い方の問題か。 にしても人の家でそのレベルでくつろげるのは逆に羨ましいぞ。 …はは、勿論嫌味だ。 「…座らないんスか?竹内さん。」 妙に生き生きとしている佐々木が何か言っているみたいだが、俺にはそんなものを聞いている余裕はない。 そもそも自分の気持ちに整理もつかないまま、佐々木と隣同士に座るなんて落ち着けるわけがないだろう。 更に現在進行形で大問題が起きているこの状況だ。もう意味がわからない。 絶対絶対無理に決まってる……のに…。 「座る。」 断り方、もっと職場で勉強しておけばよかった。 これでは佐々木の思うツボでしかない。 いや思うツボってなんだ、それじゃまるで佐々木が既に気付いている事になるじゃないか。 考えすぎだ。 佐々木に透視能力があるわけでもあるまいし、変に警戒していたら逆に怪しまれるだろう。 ゴワゴワの刺激を受けないようにと無意識に腰が引けてしまうのは、もう仕方がないとして。 俺は涼しい顔して隣に座ってやった。 奴の策略にも気付かず。

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