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第69話

気を紛らせるためのテレビなど、所詮は電気代の無駄遣いだという事に薄々気が付いてはいる。 しかし何も無いこの家では、そんな現代社会において必需品ともいえるその機械に縋る以外の方法が見つからず、俺は必死に画面越しのつまらないトークを食い入るように眺めた。 すると、ふと肩に感じていた心地の良い温度と重みが消え、驚いた拍子に吸い込んだ必要以上の酸素に思わずむせそうになる。こ、これは…これはもしかしてもしかしなくても。 トイレか!! 遂に尿意を催してくれたのか佐々木。 お前が話のわかるやつでよかった。いや、話がわかるのは佐々木本人と言うよりは佐々木の膀胱か。 まあそんな事はどうだっていい。今は佐々木が俺の前から姿を消してくれるのなら別に何だって構わないのだ。 そう思い込み、佐々木の膀胱を信じきって安心したのだ。安心したからいけなかった。 この直後に起きた最悪の事態に備える事など、俺には出来る筈なかった。 「んーしょっと。」 「…っ、ぇ……は?!おま…なに…っ。」 少し前まで俺の肩口に流れていた少し長めの髪の毛は、俺の前を通り、俺の胸を掠めると ………俺の、股間の上に((( 違うな。それは言いすぎた。俺の太腿の上に、ぱさりと散らばったのだった。 「俺、普段家だとソファ無いからずっと転がってるんスよー。だから竹内さんの膝借りまーす。」 普段とかソファとか知らないから本気で今だけはどうか勘弁していただきたいものである。 だ、だって待て待てお前、わかっているのか。 今お前の頭は布を1枚挟んでアラサー男のちん………混乱しすぎてつい下品な単語を発しそうになってしまったではないか。 言い改めよう。アラサー男のアレを直ぐ傍に、というかもはや触れてもおかしく無い位置に置いたんだぞ。 普段は2枚だ。冬は3枚になったり毛糸のぬくぬくしたそれを更に挟むこともあるが、今はたったの1枚だ。 ゴワゴワの着古したそれを1枚捲るともうあるんだぞ。わかっているのか。 …嘘だ。わかっていて欲しくはないな。 「…竹内さん?重いっスか?」 「いや、重くはない。」 「よかった。脚の感触っていうか、竹内さん俺が思ってたより細いからちょっと心配になって。」 布越しの脚の感触を言っているのか。布越しの息子の感触はわからないか、大丈夫か? 「うーわ。でもマジで細いっスね。体重何キロあるんスか?」 佐々木の手によって撫で下された右脚は、俺の気持ちなどまるで無視するかのように強張り、全身に力が入る。 「……もう何年も測ってないから…わから、ない…。」 この状況で動揺するなという方が無理な話ではないだろうか。 「んー、俺の感覚だと…わんちゃん50無いくらい?身長もアレだし。」 もう、今更何を言われたところでムカつくなんて思えるほどの余裕は俺には全くもって残っていないわけで。 スリスリと脚を変態みたいに撫でる手を突っぱねる事くらい簡単なのに、抵抗したくても出来ないまでに、俺の頭はパンク寸前になっていた。

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