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第110話
隠し通せないだろうとは思っていた。
それでも期待はしていたがな。
「…随分、底の厚い靴を……履かれているんですね…?」
「………お前は何も見ていない。」
「見ました。」
「見てないんだ。」
「でも。」
「上司の言うこと聞け。」
「今は無理です。」
「……。」
つまらない言い争いは、俺の敗北で終わる。
ついさっきまですくすくと成長していた息子は何処へ隠れた。そんなに幻滅したか?そうだろうな。ガッカリだろうよ。
かなり高身長なお前にすら見上げられていた俺は、実際は20cm近く盛っていたのだからな。
「…笑うでも嫌うでも好きにしてくれ。俺は部屋に戻るよ。」
軽くなった身体を起こすと、一足先に立ち上がった法月に視線を向けた。
彼を見る時の角度というのは既に癖づいていたらしく、若干首を下に向けたがそこに映るのはたくましい胸板だ。
これだから背の高い奴は。
立ち姿すら嫌味に見えて仕方ない。
深くため息をつき、日頃のパソコン作業で凝り固まった首に右手を添えて持ち上げる。
改めて知らしめられたこの男との格差に劣等感を覚えたのはいうまでもない事で。
だが、ぐんと見上げた先にある法月の顔つきは
バカにする笑いを浮かべているわけでもなければ、驚愕しているわけでも嫌悪しているわけでもない、奇妙なもの。
「竹内さん……。」
「なっ……なんだよ…。」
両手を頬に添えてハの字眉。何故か反っている小指に、薄い唇は半開き。
普段からこれでもかというほど輝いている瞳には更に光が増し、さながら少女漫画のヒロインだ。
プルプルと震えながら、足の先から髪の毛の先までを舐め回すように見尽くした末に
「かッ……かわいい…。」
男とは思えぬ甘ったるい声色で、もはや裏声に近いのでは無いかと思う高音で
小さく、小さく呟いた。
上司として、ナメられていない事や嫌われていない事には一安心だが
何処をどう見ても俺は可愛くはない。
それより法月の今のきゅるんとした表情の方がよっぽど──…。
いや。
辞めておこう。その思考は流石にどうかしている。
周りに顔のいいホモが渋滞しすぎているせいで、どうも頭の様子が変だ。酸いも甘いも格好良いも可愛いも全て男に基準を置いてしまう自分が怖い。
ひとまずショートしかけた俺の思考回路を冷却するため、法月の特殊属性記入欄に“オカマ疑惑浮上”と付け加えておいた。
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