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第126話

「おぉびっくりしたぁ…なんだお前……。」 登場の仕方が恐怖すぎたせいで、逆にリアクションを取れない俺は多分どこまでも面白みに欠ける男なのだな。 法月と顔を突き合わせる瞬間の事を考えて頬張った味気のない飯の、本来の美味さを返して欲しい。 もしくは心の準備であったり頭を切り替えるのに必要な時間を与えて欲しかった。 「湿布、お持ちしました。」 「そ、そうか…。」 「あと頭も冷やしました。」 「とりあえず冷やした頭を上げてくれ。」 開け放たれた襖の向こうは格子状に組まれた木製の外扉。要するに、大男が小男にひれ伏し湿布を差し出している姿が他の旅行客から丸見えなのだ。 頭が冷えたのなら、もう少し冷静さも取り戻せ。 ……って誰が小男だ。 おずおずと上目遣いを巧みに使いながら頭をあげる法月は、どうやら本当に反省しているらしく 彼にはどうやっても似合わない青白い顔色でこちらを見た。 心なしか…震えているようにも見えるがもしやこれは──。 「……頭を冷やしたと言うのはもしかして…。」 「はい、部屋で冷水シャワーを15分程浴び続けまして。」 「死ぬぞ馬鹿野郎!!」 俺にこれ以上罪を重ねさせるのは頼むから辞めてくれ。檻の中で生涯を終えるのは御免だ。 だがまあ、それだけ自分の過ちを重く受け止め、必要以上の拷問を自身に浴びせるほど苦しんでくれたと言うのなら 俺にも非はあるしむしろ気持ちを知っている上で軽率な行動を働いてしまったのだから、彼の行きすぎた行いと対等では無いにしろ、相応の謝罪をするべきだ。 「…俺も、色々とすまなかった。 今後はもっと……気をつける。だから一先ず身体をこれ以上冷やすな。」 押し入れに入っていた備え付けの上着を法月に掛け、その足で外の引き戸と襖を閉めた。 違和感はあるものの、あからさまに引き摺らずとも歩ける足の丈夫さに安堵しつつ新品の箱を受け取る。 「本当は竹内さんに触れてしまった手を切り落としてしまおうかとも思ったんですが…流石に旅館の方のご迷惑になる事は出来ず…。」 「待て待て待てもういいっつってんだろ。」 この男は暴走させてはいけない。 捨て犬のように縋る法月を見て、心に固く誓った瞬間であった。 「それよりも、俺はあまり沢山は動けないからお前に頼みたい仕事も山のようにある。 まあその…なんだ、反省してくれているなら、俺のサポートを頼む。」 「た…っ、竹内さん…!!はい!僕頑張ります!」 「おお……いい返事だな…。」 「はい!!」 ぱああっと花の開く効果音やら背景が思い浮かぶ法月の表情の変化が、無自覚であろうが俺の罪意識を薄くする。 そんな同い年の男を見ては、まるでワンコみたいだと口角が微かに持ち上がった。 無論、俺の想像するワンコとは本物のそれでは無い。 共通点など今まで見つけた試しもない、法月とは性格も何もかも正反対のあのワンコの事だ。

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