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第151話

隣に居るはずの竹内さんが遠い。 走って追いかけて、手を伸ばしたって小指の先にも届かないくらい。 俺の気持ちを拒否するには、あまりにも酷い言葉だった。 気付けば竹内さんの事ばかり目で追っていた。そんな憧れの人と、隣に並んで話せる関係を築けたのは信じられない事だって自分でもよくわかってる。 だけど、彼に向ける想いがそれだけでは無くなっていた事を自覚するたび、嫌われないだろうか。引かれないだろうかってもう必死で。 身体に触れて、熱を感じて、竹内さんだってそれに応えてくれた。 嫌々とかじゃなく、自分の意思でそういう事してくれたって…俺、思ってたよ。 竹内さんは、そうじゃなかったんだね。 これが大人と子供の違いってやつ? 俺みたいなガキにとってはさ、アンタの言動が全部俺を意識してくれてんじゃないかって思うものばかりだったんだよ。 アンタが俺の全てなんだよ。 申し訳なさそうに頭を抱える様は、どこまでも俺の好きな竹内さんだった。 人と話すだけでもすごく気を遣ってくれて、優しくて大人っぽい竹内さん。 大好きだよ。そうやって、誰かの為って自分を犠牲にする所。 時間はやる。身体もやる。だから恋人になるのは諦めろ…って、そういう事でしょ。 それなら俺はいっその事、俺との繋がりを全て断ち切ってくれた方が助かるんだけどな。 諦めて欲しい為に切り出した条件が、逆に諦められなくなるって気付けない竹内さんが好きだ。 空回りしてて、不器用で、可愛い。 …諦めるなんて、俺には無理だよ。 せめて一度でいいから、まだ直接伝えた事は無かった“好き”をアンタの耳に届けさせて欲しい。 心に届かなくても良いから。 俺の声を、聞いてくれるだけでいいから。 腫れぼったい目元を長い袖で拭う竹内さんの腕を掴み、合いそうで合わない視線に怯む。 だけど、今言えなかったら一生後悔する。 崩壊しそうな精神に喝を入れ、深く息を吸い込んだ。 「…ねぇ竹内さん、あのさ──。」 「佐々木。」 「…っ。」 涙で濡れた白い手にそれを剥がされれば、だらんと垂れた肩から下は、まるで力を失う。 触れる事すら拒まれた。 嫌いだと口で言われるよりも、何百倍も…痛い。 「こんなに…辛いって思わなかったんだ。お前は何も悪くないのに……っ、ごめん。」 大丈夫だから、謝らないでよ。 そう言えるだけの余裕は無く、音を立てて鼻を啜る竹内さんの背中を撫でる事も出来ない。 次拒否されたら、俺はもう竹内さんと顔を合わせる自信すら失ってしまうから。 「叶わない恋って…っ、こんな、辛いんだ…な……。」 「…え、。」 俺が言ってしまったのかと思った。 だが、それを言葉として紡ぎ出したのは竹内さんの唇で。 骨も内臓も、俺を作っている全部が崩れていく音が聞こえた気がする。 竹内さんの言う“叶わない”の意味。 広島から戻ったこのタイミング。 向こうで知ったと今しがた話してくれた、部下のプレイベートについて。 絶対に認めたくない最低なシナリオが 脳内で、最悪の形で結びついた。

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