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第152話

あれは中学3年生の夏だ。初めて彼女が出来た。 俺みたいなのを好きだと言った変わり者の女の子は背が高くて、何処かに出かける時も絶対にヒールのない靴を履いてくれていたっけ。 周りの冷やかしに耐えかねた俺が自分勝手に彼女を避け、確か受験前に別れを告げられた。 その次は高校生の…そうだ。ちょうど佐々木と出会った辺りだろうか。 二度目の彼女は随分小柄で、友人にはここだけ空間が歪んでるなんて笑われた事もあったっけ。 高校生にもなれば出来る事も増え、少し背伸びをして遊園地のペアチケットを取ってみたりもしたな。 社会人になり、相手は大学へ進学し、時間が合わないだかで別れたような、違ったような。 それからもう1人、入社してすぐの頃同僚に紹介された女性と付き合った。行動力のある人だったお陰で、彼女と居る時は俺史上最もアウトドアだっただろう。 学生時代とは違い、時間の制限、行動の制限がなくなった関係。多分、色んな景色を見に行った筈だ。 そもそも友人の少ない俺は普通の基準も曖昧なのだが、多過ぎず少なすぎず、それなりに恋愛を経験してきた…つもりだった。 それなのに、俺は今、一つもそれらの経験を活かす事が出来ていない。 …いや、活かせる経験というものを何一つして来なかったと言った方が正しいかもしれない。 いつだって、気持ちを言葉にしてくれるのは相手の方だった。 好きだと言ってくれるのも、もう限界だと言って去っていくのも。 俺はただ、相手に従い、相手が満足するのを待つだけだったのだ。 だからと言って当時の相手を何とも思っていなかったわけじゃない。別れを切り出されたら悲しいし、一人になるとショックを受けた。 だが、別れ話に対して何を言ったところで無駄だというのはわかっていたし、他の男を見ているのなら、悩んでいるだけ時間の無駄だとすっぱり諦める事が出来ていた。 引き止める権利などありはしない。 全ての人間に自由が保障されているのだ。 俺にも、俺の歴代の彼女達にも、そして…佐々木にも。 「叶わない恋…かぁ。 それー、俺もなんスよねぇ…。」 伝える前からわかりきっている結果だった。 自ら想いを伝えた事など長い人生で一度も無く、それ故に放ってしまったのは、男として情けなさすぎる女々しい言葉の数々。 俺の全てをあげる。 そう言っても、佐々木は報われない恋を諦める事が出来ないんだ。 男が男に恋をする。ファンタジーみたいで、信じられなくて、でもこんなに近くに、同じ悩みを抱える君が居て。 そんな君に、届かない想いを抱いて。 「そ、か……同じだな…っ、辛いな…。」 「っははは…マジ、くっそつれぇスよ…。」 今、その背中に腕を回しても良いだろうか。 あの嵐の夜のように、悲しそうに目を伏せるお前を慰める為に…と後付けの言い訳をすれば、許してもらえるか? 伸ばした手が触れ、僅かに乱れた呼吸が伝わる。 前と違って明るいままのその場所では、隠し切れない想いが募る。 なあ佐々木。好きなんだ。 どんなに汚い手を使ってでも、お前を欲しいと思ってしまった。 俺は、ダメな大人だな。

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