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第153話
俺に出来る可能な限りの力強さで、震える佐々木を抱き締めた。
佐々木の心拍は俺より速くて、突然の無理な頼み事に動揺したのがうかがえる。
ただでさえ、こんなに広い世の中で互いに想い合える可能性などごく僅かだと言うのに
それを何の生産性もない同性に抱いてしまった思春期の佐々木。
もし俺のように、気持ちに罪悪感すら覚えていたとしたら、それを他人に否定される苦しみはどれ程のものなのか。きっと、図り知れない痛みで首を絞めてしまっただろう。
ごめんな、佐々木。
俺の我儘に付き合わせようとしてしまって、本当に。
「…ちょ、えっと……竹内さん?」
「俺の慰め…なんか、要らないか?」
流石に俺の気持ちに気がついてしまっただろうか。そりゃそうだよな、いきなり諦めろだなんて赤の他人が言う台詞じゃない。
下心の見える接触など、糞食らえと突き放されるのがオチか。
これが最後になるんだろう。
佐々木に触れられる最後の日。大好きな佐々木の温度を、自らの体温と馴染ませて、移してもらえる最後の日。
よく見たら佐々木の髪は金色が混じっているんだな。脱色の面影か?まだ学生なのに、髪なんか染めていたのか。勿体無いな、折角ストレートで髪質だって綺麗なのに。
お前の匂い、好きだったな。だけど今日は少し違うのが混じってる。修学旅行先で使ったソープの名残なのかもな。
そんな匂いも大好きだ。…って事は、そもそもの佐々木自身の匂い…いや、違うか。お前の全部が好きなだけだ。
後ろで纏められている髪の束に寄り、スンと鼻を鳴らす。やっぱり佐々木らしくない香りと、入りきらなかった襟足を残す頸が悲しい程に色気を見せつけ、腹の底が疼いた。
ああ、これ以上は進むべきではない。今度こそ佐々木から離れなければ。
店員と客で居られるように、良い関係で居られるように。
そう、思ったのに──。
「佐々木……?」
自らの腕を解いた瞬間、身体は離れるどころか更に密着度を増して。
背中にはっきりと感じた掌の圧は、俺より大きく、力強さがあった。
離れなくても、いいのかよ…。どうして俺を困らせるんだ。いつもいつも、お前は…っ。
「慰めとか…酷いよな、アンタ。竹内さんほんっと意味わかんねえ…そういう大人ぶったところ、嫌だよ俺……。」
酷いのはどっちだ。意味わかんねえのはどっちだ。
お前のせいで俺は、身も心もズタズタに引き裂かれて、何も考えられなくなって、俺じゃ無くなっていく俺に…ついて行けなくなって。
それなのに、お前の意思でお前を感じていられる今が…なんでこんなに嬉しいんだろう。
振り回されるわ利用されるわで散々なのに、辛いのに、幸せで。
「応援したいんだよ…俺は、佐々木の事を…っ。」
そうしたいのに、そうさせてくれない佐々木は、見えない場所で歯軋りの音を立て、再び俺を突き落とすんだ。
「俺…いいスよ。竹内さんの条件呑む。
諦めれるかわかんねぇけど…っ、アンタの時間と身体は俺に寄越せ。」
元通りには戻れない。
終わりの始まりを知らせる鐘が、頭の奥で鳴り響く。
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