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第170話

竹内さんが吸ってる煙草をあえて選んだって事か…? コイツ何考えてやがる。 お前が喫煙者なのかそうじゃないのかなんて正直どうでも良い。今はその番号を選んだ理由が知りたい。 わざとだった。真似でもしてるのか。 例えば俺がコレを買うとするなら、竹内さんの好みを知りたい…とか、面影を感じたいとか。でも三日月男はそうじゃない。だってお前には子供がいて、結婚していて、嫁を愛していて、竹内さんの気持ちを弄んでる筈で。 じゃあなんで?なんの恨みがあって竹内さんにそんな酷い事をする。 どんな最低な男でも、俺は竹内さんがコイツをどれだけ想っているか知ってる。だから、ここまで憎たらしいと思うんだ。 震える手で75番の煙草を引き抜き、何度も空気を飲み込んで飛び出しそうな心臓を押し込んだ。 振り返ればガキに温かな笑みを浮かべて話す、優しい父親の姿。ガキの胸元に付けられたチューリップ型の名札には「のりづき ゆら」って書かれてる。 何処から見ても平和な光景が、その辺のR15指定の映画よりよっぽどグロテスクに見えた。 と、その時ふと俺の頭をある記憶が過る。 つい先日の事だ。ここじゃないもっと遠くの、広島にあるコンビニで竹内さんとばったり会った夜。 年齢確認もしないダメダメな店員から、俺も同じ煙草を買っていた。 理由なんてただ一つ。 竹内さんに、渡す為。 「なあノリヅキさん。」 「何かな?」 娘との会話を止めて俺を見上げる彼は、口角を緩く上げたまま。 「もしかして、竹内さんに渡すんスか。」 崩れない笑顔で、少しも隙なんか見せない完璧な顔つきで。 「あぁ、よくわかったね。今から伺おうと思ってね。」 「はあ?!」 予想もしていなかった返答に、思わず声を荒げた。 父親の隣で同じく俺を見上げていた「のりづき ゆら」がビクリと肩を揺らす。 何も悪い事なんかしていないのに脅してしまった罪悪感と、でもそれ以上の嫌悪感がごちゃ混ぜになって 俺の視線はいつの間にか、父親じゃなくそっちへ向く。 「………このガキ、連れて行く気か?」 「え?勿論。家で一人にするのは心配だからね。」 ふざ、けんなよ…? いくら何でもそれはあんまり過ぎるだろ。竹内さんがどんな気持ちで法月を好きでいると思ってんだ。俺がどんな気持ちで竹内さんを抱いたと思ってんだ。 全部…全部全部お前のせいなんだぞ。お前のせいで何もかも滅茶苦茶だ。お前が竹内さんに優しいふりをするお陰で、竹内さんも俺も誰も幸せになれてない。辛くてたまんない。 なのにお前はそうやって、これ以上ないくらいのどん底に竹内さんを堕とすのか? 「あーあと、これは佐々木君に聞いておきたかったんだけどね。」 「……なんスか。」 「今日仕事休んだんだよ、竹内さん。…君が何か、事情を知っているんじゃないかと思って。」 「っ、?!」 その先の言葉が、まだ高校生の、子供の俺には…見つからなかった。

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