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第171話

……………やってしまった。 俗にいうズル休み…サボり…仮病。 今日の締め切り、明日の朝まで、なんか色々あった気がするぞ。そろそろ依頼が来そうなものも、直前のキャンセル常習犯と明日は部長が打ち合わせ予定だ。俺のもとにメールでも入っていたのなら、責められるのは…俺だな、間違いなく。 始業時間直後に電話をかけてきた法月は大層焦っているように思えた。 そりゃあいつが入社してからこれまで一日たりとも有給すら使っていなかったのだから当然か。溜まりに溜まった有給を消化しろと言いながら、その手には資料を抱えている上司を見て誰が呑気に家で暇出来ると思う。 …あ、今俺一日呑気に暇してる。 成人なんてとっくに迎え、今年で入社8年目。いよいよ中堅社員とも言えるようになってきたであろう時期に、用事も無く健康体でサボりとは…社会人としてとんでもない事をしでかしてしまった。 ジャンルとしては大きく違うが、つい先日も社会人失格を実感したばかり。落ちるのは一瞬だな。誰のせいで人生が歪んだんだ。…俺だよ。 「あああぁ~~~ああ!」 叫んだところで誰にも届かない。誰にも響かない。俺の甘えに優しい言葉をかけてくれる奴なんて、誰も──。 「♪♪~」 「ぉわっ…電話?」 日もくれ、月が高く昇る20時すぎ。定時なんかずっと前に越していると言うのに、画面に表示される名前は残業のざの字も知らない出来すぎた部下だった。 「…はい。」 『竹内さん!今ご自宅ですか?』 「そうだが…何かあったか?」 運転中なのか、ウィンカーと道路を走るタイヤの雑音が混じる。こんな時間に、法月が俺に電話をしてくる理由があるか? ハンズフリーでも高音質を保証されている立派な車に乗りやがって、なんてちょっとした嫉妬心を抱きながら凝り固まった身体を起こした。昨晩の尻の痛みはもうだいぶ緩和されたが、消えない違和感は鮮明な記憶と共に俺を自責の念で押しつぶす。 『今から会いに行きますね。』 「は?おまちょっ、何言ってんだ?!」 『あと5分くらいで着きますので、それじゃ!」 「えっな……ブチッ」 あ、切られた。 え…?えぇー…。 何があってどういう経緯でそうなった。そもそもお前俺の家知ってたのか。何しに来るんだ、もしかして俺の仕事がお前に回されたか?腹いせか?ナイフでも持ってやってくるのか。 え?俺死ぬの? ヤバくないか?未成年淫行と仕事サボった罪を償う間もなく、何か別の事で巻き返すチャンスも掴めず、人生最大の屑と化したこの今、死ぬのか? ………末代まで語り継がれる黒歴史だ。 いや、俺が結婚出来ないまま死ぬんじゃ俺が末代だわ。 慌てて起きて、とりあえず確認したのはキッチン。 包丁…無い。フライパン…無い。あるのはシリコン製のタッパーとアルミ灰皿くらいだ。これで法月に向かい打って…倒すことが出来…れ、ば……。 ピンポーン うん、終わった。 最後の手段、バスタオルを腹回りに装備して向かう玄関口。 恐る恐るのぞき窓から客人の姿を見たところで言葉を失った。見えたのはスーツ姿で中腰になる法月と、園服を纏い彼の手を握る幼女。 考える間もなく勢いに任せて扉を開けた。 「のっ、法月?!そんな小さい子連れてどうした!もしかしてお前もこちら側の人間に──。」 「どうも竹内さん。これ娘です。」 なるわけ、ないよな。

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