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第175話
「──と言う訳なんだ。」
包み隠さず打ち明けた話を、アニメに夢中なゆらちゃんの頭を撫でながら法月は黙って聞いていた。
初めは目を合わせる事も恐ろしかった暴露話だが、途中で怒鳴り声を上げない彼に甘えて最後は茶を啜りながら比較的スムーズに説明できたと思う。
だが、言いたい事を全部放って顔を上げたその時、法月の目に動揺の色が混じっていた事は事実で。
「竹内さん…あなた本当に突拍子もない事をしでかしますよね…。」
「うっ、で…でも法月、俺はっ。」
「佐々木君が好きなんでしょう。他の人を好いている佐々木君が。」
「……ぁ、」
それ以上、何も言う事は出来なかった。返す言葉もない。言いかけた事を先回りで言われてしまえば頷くのが精一杯だ。
俺は佐々木の事が好き。でも佐々木は別の男が好き。面と向かって本人から聞かされた現実でありながら、構わず襲い掛かった。乗り気ではなかったであろう彼の歪んだ表情は、俺の身も心も滅茶苦茶にした。それは恐らく、佐々木も同じ。
「…今回ばかりは冗談では済みませんよ。向こうからではなく竹内さんが無理に迫ったという解釈で間違いないですね?」
「…あぁ、その通りだ。」
「紛れも無く性犯罪ですよ。強制性交罪、強制わいせつ罪、強姦、レイプ…呼び方は様々ですが大体当てはまると思っていいでしょう。」
いつになく真剣な法月の目に、これは甘えで通じる域などとっくに超えてしまったんだと、今更ながら胸を締め付けられる。
遅すぎた自覚に指は震え、つい手を滑らせて落ちたグラスが自らの衣服をじっとりと濡らした。
…法月は俺に心酔しているなんて、勝手な妄想だった。
確かに毎度甘やかしてくれた部分はある。俺を好きだと言いつつ、別の男に片思いする俺の肩を持つ言動も。
俺はどうだ。同じ境遇でありながら、そのうち応援するだなんてぬるい事ばかり考え、佐々木を苦しめて自分の欲求を満たして…到底許されない事をした。
「竹内さん、僕はあなたの幸せそうに笑う顔が見たいんですよ。」
「……のり、づき…。」
法月の目に嘘は無い。本心を口にする彼は、いつになく険しい顔で真っ直ぐ俺だけを瞳に映す。
近くに放られたバスタオルで俺の汚れた腹部や足を拭い囁く姿は、どこまでも俺を好いてくれる、大人で、優しく、格好良い男だ。
俺もお前のように余裕を持てたのなら、少しは未来も違ったのだろうか。佐々木が褒めてくれた嘘っぱちの要素を全部持ち合わせているお前のようならば。
「…ま、あの子も相当竹内さんとは仲良くしていたいようですし。突然訴えられるなんて事は無いと思いますよ。」
「そう、か…?」
「ええ。だからこそ、竹内さんが幸せになる為に僕から一つ提案があります。」
少しも厭らしい動きなどせず、手早に水分を拭き取るさまは先日とは全くの別物だった。
キラキラと普段通りの胡散臭い笑み。だが口角だけは、無理に上げているのか時折痙攣を繰り返す。
「これを機に彼女の一人でも作ってみては?」
「んなっ…?!」
突拍子もない事をするのは俺の方かもしれんが、言うのはまず間違いなくお前の方だ。
理解に苦しみ放心状態の俺に、さらに畳み掛けるよう法月は言葉を紡ぐ。
「まずは女性と何処かに出かけてみるだけでも。
本当は僕が行きたかったんですが、ゆらも居ますし…あなたには振られているのでね。」
どうにも冗談を言っているようには見えない彼は静かに立ち上がり、ゆらちゃんの待つソファへ戻る。
対峙した悪者に向けるヒロインの決め台詞が、静かな部屋に響き渡った。
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