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第176話

彼女を作る…、そのために女性と出掛けるだと? いやいや、先ず俺には仲の良い女友達も居なければ恋愛に発展しそうな女性などいくら記憶を辿ってもただの一人も思いつかない。 しかも全く気の無い相手をこちらから誘うなんて罪深い事が俺に出来る訳無いだろう。 みんながみんなお前のように誰とでも仲良くなれると思ったら大間違いだ。 「あのなぁ法月、俺の為にと言ってくれるのは嬉しいがそんな相手いないぞ。職場の人間とすら話さないのにそう簡単に見つかるわけもないし…。」 「逆に仲が良い人こそ誘うべきではないですよ。」 「は?」 いつの間にか最新話を見終えて興奮気味の小さな手から少し温度を上げたスマホを抜き取った法月は、凄まじい指さばきで巧妙に画面を操る。 怪しく照らされた顔は、指の動きが止まると共にうっすらと笑みを浮かべて。 「ほらこれ。竹内さん知りませんか?」 「なんだこれ……あ、え、出…出会い系…?」 「今時はマッチングアプリと言うんですよ。」 「変わらんだろ…。」 何処から見ても間抜け面であろう俺の目の前に突き出されたそれは、度々SNSなんかでも紹介されている有名な出会い…いや、マッチングアプリのトップページだった。 そうか、これを使って近くに住む自分好みの女性を選びアタックするという作戦だな。うまく連絡を取り合う事に成功すれば、一度会ってみませんかなんてやり取りも可能という訳か。ふむふむ、なるほど………。 って、そんなもの使えるか!!!!! 「却下だ!絶対無理だ!俺には出来ん!」 「僕が竹内さんのアカウント使って会うまでの流れは作りますから!」 「そっちの方が問題だわ!!」 たまにわからなくなる。法月が。 実はお前、やっぱりアホだろ。頭がいいのとアホなのは別物だと俺は思うんだ。 「はぁ…ダメですか。ではあまり使いたくなかったんですが仕方あませんね。」 「ん?」 俺に向けていた画面を再び自身の方へ向け、スイスイと流れるような指さばきでスクロール。 ぴたりと手を止め俺を呼んだので、恐る恐る首だけを伸ばして覗き込む。 と、そこに見えたのは──。 「これ、僕が夜やってた頃のお客さんなんですけどどの子が好みです?」 「人の心を持て!落ち着け法月!」 ブロックリストに連なるのは様々な女性の名前。子のつく花のアイコンから、てゃんとか発音の仕方もわからんマ〇メロのアイコンまで揃っている。 理解は出来ないが直感した。総じてヤバそうなのの集まりだ。お前よくこんな地獄みたいな奴らを相手していたな。俺ならたとえ金が発生していても無理だ。向いてないなんて言ったのは誰だ。俺は一生信用せんぞ。 「わかった!居る!居るから!心当たりあるから!」 「ほう。それはどなたですか?」 「それ……は、あの、アレだ…えっと……。」 この俺が言っても許される程の彼の暴走具合に、思考も何もぶち壊されてしまった。 だから、たまたま過ぎったあの日の佐々木が切り裂いていたレシートに縋ってしまったのだ。 「会社近くの〇ーソン、昼時に見かける女性店員がいるんだ。…名前は……松本さんだ。」 松本…いや、松井だったか?いやもう何だっていい。昼飯が毎日ラーメンになる覚悟は出来た。とりあえず法月の元の客に頼ることだけは避けたい。 「おっ、そうと決まれば早速行動に移しましょう。明日僕も弁当持っていかないので、昼休みは一緒にコンビニ行きましょう!」 「は?!」 ゆらちゃんの手を引きさっさと立ち去る法月に、反論の言葉はそう簡単には出てきてくれなかった。 親子愛によって浄化されたソファには、彼の持ってきた煙草と使い捨てマスクの入ったビニール袋だけがちょこんと座っている。

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