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第177話
翌日。現在13時30分。
怖い程スムーズに進んでしまった事柄に動揺しつつもポーカーフェイスを決める男。それが俺だ。
正直昼休憩なんて取れる筈が無いと確信していた。昨日一日で溜まったであろう仕事を片付けているうちにそんなもの丸ごと潰れてしまうだろうと。
だから、わざわざエナジードリンクではなく腹持ちのよさそうなこんにゃくゼリーと炭酸水を流し込んで出社したのに…。
0ではないものの、処理済みの資料と返信済みのメール。もしかして俺は幽体離脱でもしていたんじゃないかと本気で疑った。生霊を飛ばしてまで仕事に明け暮れるなど、まさに社畜の極みである。
「竹内君、もう体調は大丈夫なのかい?」
「一日休んで少しは回復したか?」
「……あぁ、はい…。ご心配…おかけ、しました。」
だが、そうではなかった。
俺の積もりに積もった山を少しずつ崩していってくれたのが他でもない法月なのだと知らされれば、更に彼がわからなくなるばかりで。
一体どこからが計算で、何がそうでないのか。たった一人の男を理解するには、相当な時間が必要らしい。
それでもまだ希望は捨てていなかった。店員も自ら教えた番号に何一つ連絡を寄越さなかった相手から突然声を掛けられたところで、そりゃいい気はしないだろうと思い込んでいたのだ、が。
『──えっ、いいんですか?連絡先…無くしちゃったんですね、いえっ全然大丈夫なんですけど!』
名刺を差し出し「なくした」とだけ伝えたのが悪かった。どうせなら正直に、切り裂かれて道路に散りばめられたと言ってしまえばよかっただろうか。
彼女の胸ポケットにそれを仕舞われたのが会計時。法月の運転で会社に戻る途中には既にメッセージが届いた。
いくら俺でも仕事用でやり取りする気にはなれず、メッセージアプリのIDを教え、秒で登録されて。
佐々木も毎回返事が早いと最初は驚いたものだが、彼女も相当であった。勤務中ではないのだろうか。客を放って事務所に潜んでいるのなら、かなり問題だと思う。
佐々木だってそんな事しないぞ。あいつから連絡が来るのはいつも決まって朝と夕方…恐らく学校が終わる時間と、アルバイト前後の限られた時間だけだったのだから。
……って、この期に及んで佐々木ばっかり。自身の交友関係の狭さは自覚しているが、だからって佐々木とばかり比べてしまうのは、やはり佐々木の事が──。
「竹内さん、上手く行ってよかったじゃないですか。店員さんから何か返事来ているんじゃないですか?」
「あぁ。さっき鳴った気もしたが仕事中に返す程の余裕はない。」
「そういう所は…真面目ですよねえ。」
本当は一瞬だけ確認したんだ。次の日曜ならシフトも入っていないから会えませんか、なんて書かれていた気がする。
日曜といえば、佐々木も休みの日が多く……って、ダメだまた佐々木だ。そんな悶々とした気分は一向に晴れることも無く、通知を開かぬままポケットへ押し込んだのだった。
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