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第186話

季節はもう間もなく真夏に差し掛かる時。 太陽を取り込み十分な熱を反射させているアスファルトの上。 思い切り日向のそこが、何故か妙に涼しく感じた。 竹内さんの言葉、多分聞き間違いなんかしていない。だけど言ってることの意味は本気でわからなくて。 好きにならないなら…?諦めろと言ったのは竹内さんなのに。 他の相手に好意を寄せる…?そんな事、あるわけない。 「…は?あんた急に、何言って……?」 重ねられた手のひらは汗を滲ませ、俺が力を抜いたと同時にだらりと脱力して垂れた。 いつもと違ってスーツじゃない、サイズのあって無いスウェットでもないカジュアルなその姿は、俺が知らない竹内さんだ。見知らぬ女とデートするために選んだ服だ。 状況も、0以下の可能性も、全部理解してるのに、竹内さんの表情だけが俺に捨てきれない希望の光を灯す。 と、その時スマホが場違いな通知音を鳴らした。こーちゃんからだ。 先程ロック画面に設定したばかりのツーショット…いや、4ショット?はやっぱり誰なのかもわからない宇宙人の集合体で、通知されたメッセージは開くまでもなく大層お怒りになられてる内容だった。 うーん、直接かけた方が早いか。 「あ、こーちゃん?ごめーん駅出たとこに居るんだけど、鞄もってきてくれね?」 『お前!!急に鞄放り投げて消える奴がどこに居んだよっ。キキが痛いって泣いてんだろうが!もうチャームは回収してあるからな!』 「わーるかったって。んじゃ持ってきてねー。」 勿論目を離せば逃げていきそうだった竹内さんは、しっかり腕引っ掴んで待たせてる。隙を見計らってすり抜けようと頑張っているみたいだけど、俺があんたの事放すわけないじゃん。 そろそろ力じゃ敵わないって、いい加減わかって欲しいもんだ。 まだ何か文句を垂れ流していたこーちゃんに構わず通話を終了すると、俺を見下ろす竹内さんが今にも泣きそうな顔して唇を噛んでいることに気が付いた。…こうやって見下ろされるの、やっぱりしっくり来るや。自分の秘密をさらけ出して素直に俺をうんと見上げるこの人も、可愛くて堪らないんだけど。 …ん? って事はあの女はまだ竹内さんの秘密を知らないって事だ。そうじゃなけりゃ、わざわざ歩きづらそうな厚底の靴で居る事ないもん。俺知ってるんだ、竹内さん本当はこれ以外にも何足も厚底を持っていて仕事以外の日は若干背が低くなるって事。 「…なんでそんな顔してんの?あの女ほったらかして逃げたのそっちじゃん。俺謝らないスよ。」 「……お前こそ、その子これから来るんだろう。早く腕、放した方がいいんじゃないのか。良い感じだったじゃないか。待ち受けも…っ。」 「え?…え、待って待ってこーちゃんの話スか?ほんとに何?」 この瞬間、俺の中にとある可能性が芽生えた。 「どうしてそんな見せつけるような真似するんだよ…もうわかったから。もういいだろ、その子と上手く行きたかったんだろ、ならもう俺は用済みじゃないか!」 「ちょ、あのさ竹内さん?」 「…あの子はこーちゃんなんて言ってる癖に俺は変わらず名字呼びじゃないか。」 「え?よ、呼んでいいの?マジ?」 なんか俺ら、会話噛み合ってなくね……?

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