48 / 76

第48話 脅し人事

   須佐男(スサノオ)の暴挙に憤慨した天照(アマテラス)が、天岩戸(アマノイワト)に隠れてしまったかの如く、野原は姿を隠してしまった。  彼が出て行ってから、数日が経過してしまった。   大きくため息を吐く。仕事が手につかないというのが正直なところだ。安田は気がついているようだが、特になにか言ってくるわけでもない。  それがいいのか悪いのかはわからないが、放っておいてくれるのは叔父の優しさなのだろうと理解し、受け入れる。  あれから、日本神話の本を読んだ。天照(アマテラス)を岩戸から出したのは、須佐男(スサノオ)ではない。他の神々だ。  野原を連れ戻すには、どうしたらいいのだろうか? きっと実家に帰っているはずだ。  実家まで押しかけて、「ごめん」と頭を下げれば許してくれるのだろうか……。  ――わからない。  もう何日も野原の顔を見ていない。日本神話みたいに、野原の自宅の前でダンスでも踊ればいいのだろうか? 「んなわけあるか」  くだらない妄想を抱えて悶々としてしまう。頭を抱えていると、誰かと内線で話をしていた安田が大きくため息を吐いて受話器を置いた。 「困ったことになったな」 「どうされましたか」  安田がこんな弱った顔をするのはあまり見たことがない。槇は心がざわざわとした。  彼は大変言いにくそうな顔をして槇に視線を寄こした。 「久留飛(くるび)がね」 「どうされましたか」 「野原を……。(せつ)星音堂(せいおんどう)にやって、水野谷くんを本庁に戻す人事を澤井くんに言ってきたらしい」 「え――?」  槇は耳を疑った。 「だ、だって。星音堂(せいおんどう)は配属されたら戻ってこられない……流刑地と呼ばれている部署ですよね? なぜ雪を?」 「さあ。なんだろうね。なんか嫌がらせなのだろうか。実篤と雪のことを知っていて――?」 「……あの男」  これは警告だ。早く自分の味方をする返事を寄こせということなのだ。 「弱ったね。僕が直接、雪の人事に介入すると、きっと実篤とのことも探られかねない。立場上、静観するしかない。なんとか澤井くんにお願いして……」 「おれが直接行ってきます!」  槇はむかむかする気持ちを抑えきれずに廊下に飛び出した。後ろで安田がなにか言っているのが聞こえたが、そんなものは無視だった。

ともだちにシェアしよう!