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計測の時間***

 来宮吉野が三島律とおそろいの鍵で玄関の扉を開けた。バイトの帰りなので、夜は遅い。玄関扉を閉めると、「律さん、ただいま」と灯りの点いたリビングの方へ声をかける。これが吉野と律の約束事のようになっていた。  狭い玄関でスニーカーを脱ぐと、鞄をほとんど使っていない吉野の部屋に置いてから、手を洗って、明るいリビングを目指した。 「律さん?」  リビングを覗くと、律はテーブルに突っ伏していた。周囲にアルコールの缶が二本転がっていた。その程度で泥酔する律ではないはずなので、疲れているのだろう。  寝かしておいてあげたいけれど、ローテーブルに突っ伏していたら、明日の朝からだが痛いんじゃないだろうか。 「律さん」  肩に手を置いて、揺すってみる。 「律さん、ベッド行こう?」  律からの返事は「むぅ」という、完全に寝言だった。吉野は溜め息を吐く。しょうがない、背負って運ぶしかない。吉野より律の方が背は高いけれど、やってできないことはないだろう。 「ほら、律さん」  眠る律の腕を、吉野の肩にかける。意識のない人間は重たい。ずる、と引き上げたけれど、そこで「よしのくん……」と半ば寝言のようなことを口にした律は、吉野の腰に抱きついてそのまま引きずり降ろそうとする。 「あ、ちょっと、律さんっ」  呆気なく吉野は律の腹の下に敷かれてしまった。これでは身動きがとれない。とりあえずずれた眼鏡を直した。アルコールのにおいの混じった律のにおいを嗅いで、手持ち無沙汰な右手は律の髪を梳いていた。  最初に気付いたときは、そのときだった。 「あれ?」とは思ったけれど、気の所為だと思った。  二度目は吉野に律が背後から抱きついてきたときだった。吉野は朝、歯磨きをしていた。 「吉野くんんん」  まだ寝惚けている律は、吉野に体重をかけてくる。 「律さん、重い」  自分で口にしてから、吉野は「あれ?」と思った。  確信に変わったのは、律に組み敷かれているときだった。  頭がふわふわのとろとろになるまで甘やかされた前戯のあとで、「吉野くん、上、乗れる?」と訊かれた。  最初は「無理っ」「できない」を繰り返していた騎乗位も、今ではすっかり教え込まれてしまっている。 「うん」  気持ちよさの余韻でぼんやりと頷くと、吉野は律の上で脚を開いた。ゆっくりと腰を下ろしていき、律自身を飲み込んでいく。 「ん、ん……あ、あっ」  鼻にかかった声を控えめに上げながら、吉野は根元まで呑み込んだ。とろんとした目で律を見下ろしている。 「もしかして挿れただけで、甘イキしちゃった?」  律の大きな手のひらが吉野の細腰を掴んで、軽く揺する。 「あっ、あ、やだっ」  艶のある声で吉野がいやいやをする。中がきゅっと締まった。 「……っ」  一瞬訪れた射精感を、律は流す。それから吉野にちょっと意地悪な質問をしてきた。 「ねえ、僕の、どこまで挿ってるの?」  まだとろんとした目のまま、吉野はゆっくり下腹部を撫ではじめる。 「ここまで」  そう言って吉野が示したのは、へその下だった。律が満足そうな顔をする。 「そう。吉野くん、いい子。そろそろ動ける?」  こくこくと吉野が肯首すると、ゆっくりと腰を前後に動かしはじめた。 「ふぁ……んんっ」  気持ちいところに当たるらしく、吉野はそれを繰り返す。 「律さん、手、つないで」  言われた通りに、律は腕を伸ばしてきた吉野の手をとる。吉野は頬を赤らめて幸福そうな顔をして、少し動きを速めた。 「あ、あっ」  吉野が目顔で「イっていい?」と訊くと、体位を変えられる。律は、吉野の騎乗位は好きなのだけれど、それだけではイけない。俯せに寝かされた吉野の背後から律が抽挿を繰り返す。 「あ、りつさ、ん、ん……っ」  必死にシーツにしがみつく吉野に、律は欲情するらしい。「ふぁ、おっきくしないで」  律は口先だけの溜め息を吐いた。「吉野くん、そういうの、どこで覚えてくるの」  繰り返す抽挿が速くなり、吉野が嬌声を上げる。 「あ、あ……っ、やだ……っ、イっちゃう」  その吉野の耳元で、律は囁いた。「吉野くん、いい子。イっていいよ」  吉野のからだが小さく痙攣したけれど、それは律がぎゅっと抱きしめて終わった。  ベッドの中で律に抱きかかえられていた吉野は、ようやく一息吐くと、思っていたことを口にした。 「律さん、太った?」  律は意外だという顔で、「え?」と返してきた。自覚がないのか。 「律さん、もう三十だし、多分気を付けないと、太るよ」  吉野は言葉を続ける。 「律さん、最近ちょっと重たくなった気がするし、セックスのときも僕に動かせることが増えたし」  僕が動くのも、嫌じゃないんだけれどね、と吉野は付け加える。 「でもこれ以上太ったら、セックス禁止ね?」  

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