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先生がほしくてほしくてほしい

 体が熱くて我慢できない。  自分は病気なのかもしれない。でも病気でも別に構わない。生き物の三大欲求の一つなのだから別に人の道を外れているわけではないし、とても気持ちの良いことだから病気でも構わない。  保健室の扉をガラリと開ける。  すると慌てて電子タバコを白衣のポケットに隠す、覇気のない顔をした背の高すぎる不良教諭がいる。  事務仕事をしていたらしい先生は、俺の顔を見るとまたすぐにポケットから電子タバコを取り出した。屋上でこそこそ煙草を吸うだけでは足りないらしい。 「どうしたの……?」  ぼそりとこちらに全く配慮していない小さな声で問いかけ、煙を吐き出す。 「先生、あの、また……」  扉を閉めて先生のデスクに近づく。近づいて、先生の肩に手を、膝に片膝を乗せる。身長差十七センチ、それでやっと目線が対等になる。先生はゆっくり一度瞬きをして、ここじゃダメだよと、ダメと言いながらも俺の腰に手を回して告げた。抱かれた腰がじんじんする。 「こっち」  先生が腰を掴んだまま立ち上がるので、俺の体は宙ぶらりんになってしまい、足を絡めて仕方なくコアラのようにその身体に抱きついた。体がピッタリ密着していて、自分の股間が、すごく熱くなっているそこが、先生のお腹の下あたりにがっつり当たってしまっている。恥ずかしいのに我慢できなくて体を揺すって擦り付け、息が乱れた。ますます先生にしがみつく。 「悪い子……」  ぽつりと囁かれて、ベッドを囲うカーテンを開く。窓がなく、廊下側でもない三台あるうちの真ん中のベッド。  カーテンをきっちり隙間なく閉めて、先生は俺を抱き上げたままベッドに座る。自然と先生の膝に向かい合って座る形になり、顔が近くて自分の発情しているだろう顔がこんなに間近で見られて恥ずかしくてたまらない。 「先生……していいですか?」  火照った顔に滲む視界で懇願する。  先生は少しだけ口元を弛めてそれに答える。 「いいよ……見せて……?」  耳元で吐息混じりに囁かれ、背中を震わせながら、自らでズボンに手をかける。下着から取り出そうとすれば下着がたっぷり濡れていて布が張り付いていて恥ずかしい。先生見ているかなと視線だけやれば、ああ、しっかり見られている。 「濡れてるね……」  視線に気がついてそんなことを言う先生は、そんなふうに言われて俺が喜ぶことを知っている。息が荒くなってくる。  下着から男性器が顔を出すと、尿道口から先走りが漏れてぷっくりとした水滴がそこを汚している。握って人差し指を先っぽにつけ指を離すと、尿道口から指先まで糸を引く。自分のいやらしさに興奮する。深いため息を漏らし、それを合図にじっくりと扱きはじめた。 「はぁ……ぁっ……あつい……あつくなってます……」  ぬちゅ、ぬちゅ、と刺激により先から垂れてきた我慢汁が扱く手を汚す。空いた手は先生の背中に回してしがみつく。先生の心臓の音が聞こえる。特に早くなっている感じはないのが残念ではあるが、そのリズムと一緒に手を動かすとなんとなく背徳感があって良い。 「あっ……あっ……せんせぇ、みてます……? ぁ、せんせい……せんせい……っ」 「見てるよ。すごい、濡れてる」 「んんっ! ぁ、あ、せんせ、おれ、えっちですか……? 我慢できなくて、せんせいの……ん、せんせいのひざで、こんなことして……えっち、ですか?」 「うん……そんなこと聞いて……ますますエッチだね」 「あぁぁっ!」  先生が俺のことエッチだって思ってくれてることに激しく興奮してしまう。自分で触っているのよりも先生の言葉が全身に駆け巡って体を痺れさせる。扱く手は早くなり、先生の上で腰を円を描くように揺すってしまう。  気持ちいい……でも足りない。足りなくて、お尻の後ろに力が入る。そして激しく揺らしてしまう。目を瞑って、中に先生が入っているのを想像する……ほしい。ほしくてたまらない。 「あぁ、あぁ……! せんせ、せんせぇ……もっと、もっと……きもちいの、たりない……おちんちん、ほしい、です……せんせぇ……」  彼の股ぐらに手を伸ばすが、だめとやんわりと押しのけられた。疼いて仕方ないのに。指先が少し触れたのに。先生の硬くなってるのに。 「おしりほしいです……おしりきもちいの、ほしいぃ……」  どうしようもなくて半泣きになりながら扱き続ける。ぬるぬるの亀頭を指で撫で回し、カリの下から根元近くまで扱くが、足りない。どうにかしたくてお尻の窄まりを締めたり緩めたりを繰り返すがさらにもどかしい。  先生はそんなみっともない姿を見て、再び俺を抱き上げた。そしてベッドに仰向けに下ろして、自分はその上に覆い被さる。ズボンと下着を下ろされ、両足を広げて持ち上げられる。赤ちゃんみたいな情けない格好……恥ずかしいよりそんな姿を見てもらっていることが嬉しい。  全部見られてる。開かされると尻の割れ目がひやりとして、そんなところまで我慢汁が垂れて流れてしまったことに気付きドキドキした。  このまま先生が自分のズボンのファスナーを下ろして男性器を取りだし、自分に挿入することを想像する。百九十センチを超える身長なのだから凄く大きいのだろうな。  でも先生は挿入してくれない。そういう約束なのだ。 「自分でするんだよ」  ほら、と手首を掴まれ、両足の間からお尻の方へ伸ばされる。 「見ててあげるから」  覆い被さられて見下ろされ、まるで正常位の最中のような距離で囁かれる。俺の顔の横に肘を着いて、息がかかるほど顔が近くて。 「はい……」  大人しく頷くと、いい子だね、と頬に口付けされる。先生は唇にキスすらなかなかしてくれない。  自分で尻の肉を引っ張り広げて、人差し指をゆっくりとそこに埋めていく。指くらいなら問題ないほど我慢汁で濡れている。そわそわして、ザワザワして、声が漏れる。 「ん……ん……」 「泣いちゃって……かわいい」 「あっ……せんせ、ぁ、ちゃんと、見てくれてる……っ……あ、あ、あ……」 「見てるよ?」  ゆっくり話す、先生の低い声が心地いい。  人差し指が埋まったら、ゆっくりと中で円を描くようにして中を押し広げていく。散々男性器を受け入れてきたそこは柔らかい。一度引き抜いて今度は中指と人差し指を、穴を撫で、シワの一本一本を揉みほぐすようにしながら入れていく。 「二本……にほん、はいっちゃいます……せんせ、みてください……はいるとこ……」 「うん」  薄目を開けて、先生が体を起こして太ももに両手を添えるのを確認する。確認して、ぐぅっと中に指を二本、入れ込んだ。 「あぁぁっ……あ、あ……」  少し動かすだけで入口が擦れて気持ちがいい。みっちりとした窄まりが指を締め付け、抜こうとすると少しめくれる。たまらなく気持ちがよくて、口を開けたままだらしのない声が漏れる。 「あぁぁ……きもちいぃ……おしりきもちいぃ……」 「えっち」 「あ……ごめん、な、さ……あ、ぁ、ごめんなさい……きもちいぃよぉ……」  謝りながらも指を動かし続ける俺の頭を先生は優しく撫でてくれた。嬉しい。もっとたくさん見てほしくて、指の第二関節を曲げてコリコリと硬くなった場所を探り、押し撫でる。 「あああぁっ!」  自分でしてるのに全身にビリビリと快感が駆け上がり、体を反らして大きな声を上げてしまうと、先生がすぐに俺の顔もすっぽり隠せそうな大きな手で口を塞いだ。塞がれてるのに、んん、んん、とまだ声が漏れる。  足の先までピンと伸ばして、ビクビク痙攣しながら自分で前立腺を刺激して慰める。気持ちよくて気持ちよくてどうにかなりそう。男性器はお腹につきそうなほど起立して、体が反っているせいで臍の穴にまで我慢汁がだらだらと流れていきそこを汚している。 「んぅぅ……ふ、んん……ん、ん、ん……」  先生にたくさん声を聞いてほしいのに。どれだけ自分が気持ちいいのか、どこがどうなってるのか、触れて貰えない分だけたくさん伝えたい。  気持ちいいのと切ないのとで涙が流れる。すると先生と目が合った。 「いずも」  先生の顔が、耳元に唇が触れそうなほど近づく。先生の息遣いを感じるだけでぞくぞくとしたのに、先生は俺の汚れた臍のすぐ下、とろとろに濡れて汚してしまったところを撫でた。 「もし……僕の入れたら。ここくらいまで、入るよ」  ざわっと全身に鳥肌が立つ。  え? え? そんなところまで?  想像してきゅうう、と中がたまらなく切なくなる。蠢く指が意図せず締められ快感が増す。気持ちがいいのにもっとぎゅうぎゅうに擦り付けてもらえるのにと物足りなくて頭がどうにかなりそう。  先生は不規則にそこを押して、撫でて、刺激する。 「こんなとこまで入れて、いいの?」  ほしい。ほしい。  そんなとこまで、ほしい。  コクコクと、必死に何度も頷く。先生が外から刺激するそこが中から突き上げられるのを考えただけでたまらない。そんなところまで突かれたらどうなっちゃうんだろう。不思議と痛そうなどとは思わず、ぐちゃぐちゃに掻き回されたいとしか思えなかった。前立腺を擦る指を先生の指の動きに合わせるとまるでセックスしているようで、気持ちよさに気が遠くなる。  もうイッちゃう。先生のおちんちんでイッちゃう。 「いつか入れようね」  あ、もうだめ。 「ん、ぐ……! んんっ、ん、んぅぅーっ!」  尿道口から精液が吐き出される。ドロドロの、自分のいやらしい部分が凝縮されたもの。  先生は口を解放してくれて、あ、あ、と出てる間まだ声が漏れてしまって恥ずかしい。  自分を慰めるのに必死だった俺の代わりに、先生は男性器にティッシュを被せてくれていた。何重にも重ねられたティッシュ。ほんの少ししか先生の手の感触がわからない。  俺が四肢を投げ出し肩で息をしている間に先生はウエットティッシュで男性器を拭き取り、それら汚物をビニール袋に入れてカーテンの外に出た。ゴミ箱の蓋が開く音が無機質になって、その後に蛇口から水が流れる音が続く。  戻ってきた先生はマイペースに、誰も来なくてよかったね、と言った。確かに先日は途中で人が来てしまって大変だった。  まだ下着やズボンを履く気にもなれず、仰向けからごろんと横向きに寝返りをする。そしてベッドに腰かける先生の白衣を摘む。 「早く卒業したいです……」  先生はゆっくりとこちらに顔を向けてを肩越しに見下ろす。真ん中で分けた黒く長い前髪が涼し気な目元にかかる。 「卒業しても、いれないよ?」  知ってた。ぐっと口を噤む。 「僕のこと好きじゃないでしょ」  先生は拗ねた口調で言って、唇を尖らせた。  先生のこと嫌いなわけはない。好意がある。  でも好きかと言われたら即答できない。先生はそれが嫌なのだと言う。  俺が先生に触れてもらう、入れてもらう条件は二つ。  一つ。高校を卒業すること。  二つ。先生をちゃんと好きになること。  一つ目はまだ少しかかるがとりあえずは解決する。今は高校三年の十二月。内部進学も決まっているし、何も問題ない。辛いといえば辛い期間だが、終わりが見えてるだけいい。  問題は二つ目。  忘れられない人がいる。  激しく恋焦がれてしまった人がいる。  好きと言えずにセックスフレンドという立ち位置に落ち着き、学校でも放課後にも好き勝手に呼ばれてこの身体を抱き尽くした最低な男が忘れられない。散々抱いて一方的に捨てた男が。  あの男のせいでいまだに身体が疼いて疼いて仕方ない。  憎くて憎くて仕方ない。  愛しくて愛しくて仕方ない。  自分でも情けないほどにまだ彼を求める自分に、手を差し出してくれたのは先生。 「割に好きです、けど……」 「それじゃやだ」  子供みたいに拗ねた口調のまま、先生はその場を離れてカーテンの外へ出た。  ガタガタと引き出しを開ける音のあと、中を探る音。先生はだらしがない。また引き出しの中を散らかしているのだろう。しかし引き出しの閉まる音がして、足音が遠のいていく。  慌てて下着とズボンを手繰り寄せながらカーテンの中から声をかける。 「先生!」  足音が止まる。  急いで下着を履いていると、たばこ、と一言だけ告げて先生は待たずに出ていった。  先生。  次の授業が始まるまで待っていていいだろうか。でもどんな顔をすればいいかわからない。  下着だけとりあえず履いた状態で、またベッドに身体を預ける。ぼすんとスプリングが沈む。  先生のこと素直に好きと言えないけれど。それどころか嫌いと悪態をついてしまうことの方が多いけど。  先生がほしくてほしくてほしい。

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