「せんせ、い……ごめんなさい、俺っ……」 　首が限界まで反っているために声が上手く出せない。それを察してかわからないが額から先生の手は離れていき、俺の頭は枕に落っこちた。ぼふっと多少の埃が舞うのを感じながら顔を横に向けるが、後ろまでは見えない。 「君が、酔ってる時で。よかった」 「あっ……！」 　先ほど見せつけられたディルドがまたずぶりと挿入されていく。 「黙ったまま……大鳥のこと、こっそり思い出してたら……すごく、嫌だ」 「やっ、あ……ん、うぅ、う……」 　ぐっと奥まで挿入され、久しぶりに感じる胃が押し上げられるような圧迫感に悶える。そうして抜かれる時には声を抑えられず唇を噛んで枕に顔を押し付けた。 　この太さだとただでさえ常に前立腺を押されてるような状態になってしまうのに、それが抜かれていく時は圧迫しつつもずりずりと前立腺をずっと擦られて、もう何もかもどうでもよくなるほどの快感に襲われる。 　けれど何もかもどうでもよくなるなんて嫌で、必死で声を我慢した。 　山下の時と違い、別に本人に挿入されてるわけじゃない。でも名前を口走ってしまった以上、こんなに気持ちよくなっているところ見せたくなかった。 　それでもまたディルドは挿入されていく。ゆっくり出し入れされているだけで全身が震え、枕をぎゅっと抱きしめ堪える。食いしばった奥歯がギチギチとして痛い。 「んぐっ……ふ、ぅぅ、うっ、うぅ……」 「我慢、しなくて……いいよ？ 一番好きな……大きさ、だよね」 「ん、ひぁぁッ！」 「いずもが、好きな……」 　問いかけとと共に一気に引き抜かれ、顎が反ったと同時に口が開く。どうしようもなく気持ちいい。屈服してしまいそう。 　先生は俺が口を閉じる前に人差し指と中指をそこに入れ、二本の指を中で開いて口を無理矢理に開けさせた。 「気持ちよくなるとこ、見せて。いつもの可愛い声、聞かせて」 「や、ら……やら、やらっ……」 　開けっ放しの口から唾液が垂れる。次の快感が襲ってくるのが恐ろしく、待ちながら短い呼吸を繰り返した。 　しかしそんな風に覚悟をしていたって実際に挿入されてしまえば何の意味もなく、だらしない声が漏れる。 　早い抜き差しを繰り返され脳が麻痺していく。 「あぁっ……あ、あぁ、あぁ、やら、あ、あぁー……」 　きもちいい。もうよくわかんない。おしりの穴きもちいい。 　我慢できない焦燥感と気持ちよさに埋め尽くされる。 　いっぱい擦れてる。ずりずりとされて、ひっかかって、頭おかしくなる。やっぱりおちんちんほしい。おちんちんでセックスしないと、満足できない。 「あっ、あっ、ひ、ぃく、いくぅ……あっ、あー、あ、あっ……」 　後頭部から魂が抜けていくような感覚と共に限界に達した。 　シーツに埋まっていた自分の性器から熱いものが出され、そのままシーツをべったりと汚す。 　布が張り付いて気持ち悪い。 　涎がたらたらと流れる口から、先生は指を抜いた。 「シーツも……枕も……また、洗わないと……」 　そんなぼやきが聞こえるがすごく遠くのほうに感じて、ただ目を閉じて反応もせずにじっとしていた。 「いずも？」 　名前を呼ばれても反応ができないでいると肩を揺すられ、それでも駄目なので仰向けにひっくり返された。でも脱力してしまって先生の方へ顔を向けることもできない。 「そんなに……よかった？」 　額に張り付く前髪をあげ、額に触れられる。今は俺より、先生の手の温度の方が低い。 「きみはまだ……僕より、彼の方が好き？」 　今度は耳にかかる髪をあげて、耳に唇があたる。唇の温度は俺と同じくらい。 「せんせい」 「うん？」 「どうしていつも、そこばっかりキスするんですか……」 　掠れた、弱々しい声で聞いた。 　先生はこんなに湿ってしまったシーツの上に一緒に寝転んで、後ろから俺を抱きしめた。そしてまたそこにキスをする。 「ここのほくろが……可愛い、から。すき」 「ほくろ……？」 　そんなところにほくろがあるだなんて知らなかった。 「ここにもある」 　うなじに二回キスが落とされる。肩甲骨の上のあたりにも。 「先生、怒ったと思いました」 　まだ背中にキスをする唇を感じながら呟く。先生の唇が優しくて涙が出そうだ。額を掴まれた時にこの後どんな酷いことをされるかと恐ろしくなった自分が恥ずかしい。 　怒られても仕方ないことを口走ってしまった。酩酊していたとはいえ、酷いことを口走ったのは俺だ。 「ごめんなさい……」 「うん」 　お腹に手を回してぎゅっとされて、また唇は耳の……ほくろの場所に、帰ってきた。 「でも……怒ったと、思う。僕。なんか……お腹が、ドコドコする……ああいうとき」 「ドコドコ」 「ドコドコ……」 　可愛い語感に繰り返してみれば、先生も繰り返してくれた。 　お顔が見たくて身体の向きを変えたら頭にズキッとした痛みが走った。お酒の影響だろうか。ほんの二、三口程度の量であまりにも酷くないか？ もう二度と飲まない。 　向かい合ってみたら、先生の無表情がいつもより少し寂しそうな気がした。眉とか目とか、気持ち下がっているような。 「怒ってる時はいつもドコドコですか？」 「ううん……ぐーって時も、ある」 「今はどんな感じがしますか？」 「今は……」 　先生は少し首を傾げ、眉根を寄せて考えてみてくれている。俺はまだぼんやりとしながら先生の頭を撫でて、回答を待つ。 「心臓が……しんしんする」 「なんだか寂しそうですね」 「うん……買い物から帰るときも、少し、した。ドアを開けるの、嫌だなって」 「俺がいないかもしれないって思ったからですか？」 「そう……」 　そんな話をしていたら先生のお顔のパーツはますますへなへなと下がってしまい、とっても悲しそうなお顔になってしまった。 　そんな顔されたら俺もしんしんしてしまいます。 　先生は唇をきゅっと結んで、モゾモゾと下に沈んでいき俺の胸に顔を埋めて抱きついてきた。そしてまたいつもの頬ずり。 「さっきのは……初めて聞いた、声だった。大鳥にはいつも、ああだった？」 「いえ……ごめんなさい、どうでしょう。お酒が入ってたからかもしれませんよ」 「そう……」 　先生すっごくしょんぼりされてる。可哀想なのに、俺が悪いのに、可愛くてたまらなくなる。愛しくてたまらなくなる。そんなにやきもち妬かれて、もう。 　いや、でも挿入を続けたのは先生なのだし。一応俺だってあんな反応見せたくなかったのに。先生の入れてもらった時にあんなに気持ちよくなりたかった。 「あの、もう入れませんか？」 「うん？」 「そしたらハヤトのことなんか、全部ふっとんじゃいますよ？ 先生がハヤトに負けてる部分があるとしたら、セックスしてないとこだけです」 　起き上がったら、また頭がズキズキした。ああ、もう嫌だ、うんざりする。 　しかし頭痛は我慢して、先生に仰向けになってもらいお腹の上に乗った。先生の首筋を指でなぞり、顎を持ち上げ悲しそうなお顔を上に向かせる。 「俺のためにそんな顔してくださるんですね」 　悲しくなる。悲しくなるけど、嬉しくもなる。 　しかし先生は俺の手を払って首を横に振った。 「やだ。入れない」 「なぜですか」 「君から……離れられなくなる」 「離れられなくなっていいんですよ？」 　後ろに手を回したら先生の大っきくて硬いのがすぐに触れた。ズボン越しだが本当に大きい。ハヤトのだって初めて見た時に自分と比べて驚いたのに、それよりさらに大きいなんて。 　でもさっきディルドを入れていて頑張れば入るのではと思った。ちゃんと慣らして、リラックスして臨めば何とかなる気がする。 「先生……さっきのおもちゃ、とっても気持ちよかったです。やっぱりおちんちんが一番気持ちいいって実感してしまいました。本物もほしいです」 「やだ。入れない」 「俺の一番気持ちいいのがハヤトのおちんちんでいいんですか？ 先生？」 　さっきもう名前は出さないと決めたばかりなのに、俺のことが好きで仕方ない先生を見てるともっとつついて刺激したくなる。 　先生は腕を伸ばして、自分を見下ろす俺の唇を親指で撫でた。そして頬も。 　その手が俺のことが欲しくてたまらないと語っている。見上げる切ないお顔が俺が欲しくてたまらないと語っている。 　またゾクゾクする。先生ももう我慢なんてしなければいいのに。 　しかし先生は俺の腰を掴んで持ち上げると、お腹の上からベッドに移動させてしまった。そして起き上がるとベットの端から足を下ろして座り、うなだれて頭を抱える。 「無理……」 「先生」 「無理、入れない」 　また無理、か。 　軟禁までしているくせにどうしてここまで頑ななのだろう。俺はベッドから降りて先生の前に跪き、そのお膝にそっと手を置いた。 「俺はずっと先生のお傍にいますよ？」 　先生はこちらを見てくれない。 「卒業式だって出なくてもいいです」 「ううん。だめ」 　どうして最後の最後でこの人は踏みとどまってしまうのだろう。なんでそんなに一線を越えるのを怖がるのだろう。 　まだ手遅れじゃないと思っているのだろうか。俺はもう手遅れなんじゃないかと思う。 　先生、もう俺から離れられないでしょう？ 「先生？ 今はどんな感じがしますか？」 「今、は……」 　先生がやっと俺を見る。 　先生は瞳が大きくてとても綺麗な目をしている。 「首のうしろが……ひっぱられてる、みたい」 　汚してしまったものを綺麗にしてリビングに戻り、ソファに並んで座って置きっぱなしだった卒業アルバムを二人で開いた。 　クラスページを眺めていたら集合写真ですぐに頭一つ飛び出てる先生を見つけ思わず吹き出してしまった。 「さすがに見つけやすいですね……」 「うん」 　先生ったらまだ元気がない。俺の頭にもたれかかっていて重い。 　それにしても俺と同じ制服に身を包まれている先生を見るのは新鮮だった。しかし集合写真も個人写真もニコリとも笑っていない。自分が撮った時は個人写真の時カメラマンさんが笑わせてくるタイプの人でみんな自然と笑顔になっていたな。 「個人写真の時にカメラマンさんに面白いこと言われたりいじられたりしませんでした？」 「わかんない……でも、僕だけ凄く、時間かかって……何だったんだろう」 「それ先生が笑わないからですよ、きっと」 「ふぅん？」 　ほんと、先生一人だけ笑ってない。なんというか、無。 　俺にもたれる先生の顔をちらと覗いてみる。今も無表情なのだが、何となく今の方が人間っぽい気がする。写真の先生ももちろん人間なのだが、あまりに無表情でお顔が綺麗だからお人形みたいだ。