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第1話 組織の囚われ人

頭の痛みを抱えながら闇から覚醒する。ぼやける視界の中で灰色と人の影を捉えた。 男の声…何か話している。内容を聞き取るにはまだ意識が鮮明ではない。 「…っ‥う…」  激しい嘔気に頭痛、そして手首の痛みを感じる中で意識が鮮明になっていく。まず目にしたのが灰色のコンクリート。四方全部が壁で囲まれており窓が全くない。剥き出しの照明が一つだけ灯っている。まるで地下牢のように決して綺麗とは言い難いく、血生臭い特有のにおいがする。  目の前に現れたのは黒スーツに身を包んだ切れ長の目の男だった。冷たい視線と鋭い威圧感を帯びた双眸がこちらを凝視している。 この男を知っている。裏社会で有名な破壊の帝王。黒璃秦(ヘイリーシン)という男だ。 「目を覚ましたか」 「‥っ…」 「なんだ。返事もできないくらい怖気づいたのか」  鼻で笑う(ヘイ)を睨む。せめてもの抵抗だが、まるで意味をなしていない。拘束されて屈強な男たちに囲まれた状態で、脱出できる可能性はない。それでも俺は抗う。 ここから妹の手がかりを探さなければならない。 「離せ!…ここから出せ!」 「くくっ、間抜けだな。堂々と警察手帳を出して聞きこみに来るとは。実に滑稽だ」 「いいからここから出せ!」  そう簡単に出してくれない事は分かっている。それでも今の俺にはそれしかできない。 「煩いのは嫌いだ。黙らせろ‥」 「承知しました」    黒の背後から、短髪の男が手に小瓶を持ち近づいてくる。口角を上げ不気味に笑う男が、手を伸ばし口をふさいでくる。これでは鼻でしか呼吸ができない。  我慢が出来ず先程と同様に粉末を吸い込んでしまう。体に力が入らない。こんな絶望的な状況で拒否することは出来なかった。 体力さえあれば一蹴りかましてやるところが、拘束されていては何もできない。無力なことがこの上なく悔しい。これでは破壊の帝王の思惑通りだ。  危険を顧みず妹の捜索をしていたはずが、こんな時でも恐怖が体を支配する。クローゼットで息を殺して泣いていた子供の頃と性根は何も変わっていない。 無意識に涙を流していた。悲しいのか悔しいのかわからない謎の涙が頬を伝う。 「直ぐによくなる。少しの我慢だ」 何を吸わされたのかわからないまま黒の発する言葉に耳を傾けた。言葉の意味を考えられる思考は停止し、目の前の景色も霞む。 体は熱を持ち心拍数が上昇し、次第に息が荒くなる。 「っ…ふ‥うぅ…」 「くく、さっきまでの威勢はどうした?」 「…く…はぁ‥ぅ…」  黒が喉を鳴らしせせら笑う。意味ありげな笑顔に憤る。何か言い返してやりたいが足から這うように体が熱くなり、下腹部が妙に熱い。 「効いてきたか。気分はどうだ?」 「っ…何をした…俺の体に、何を‥」 「特別なことはしていない。ただの催淫剤だ」 口元を緩ませ言われた言葉に目を見開く。男に囲まれて催淫剤を吸わされれば、やられることは一つだ。 侮辱されてたまるものか‥ やはり破壊の王は噂通りの男だ。下劣で残酷で人を容易く陥れる。 「…何が目的だ!」 「貴様を快楽で支配してやる。もう二度と減らず口が叩けなくなるようにな」 「く‥っ…」 「体が熱くて仕方ないだろう」  嘲笑う黒に苛立ちを感じながらも体の熱をどうにかしたいと思考が変化していく。 たとえ体を凌辱されたとしても、心だけは決して渡さない。 渡して溜まるものか‥これ以上裏の社会は俺から何を奪おうつもりだ。 「‥っ‥ぅ…‥ん…」 「どうした?物欲しそうな顔だな。素直に言えば楽にしてやる」 「誰が‥」  にやりといやらしい笑みを浮かべて黒が見つめてくる。意地でも言いたくはない。薬に屈して、求めては負けを認めたのと同じだ。  これ以上絶望するのも屈辱を受けるのもうんざりだ。 「薬のせいにして素直になった方が楽だぞ。反抗しても今の貴様にいいことはない」 「‥絶対に…屈しない‥あんたなんかに…」 「ふん…自分から欲しがるまで手は出すな」  黒が周りの男に言い残し興味なさげに部屋から出て行った。あくまでも自分は手出ししないつもりみたいだ。 こちらから強請ったりしたくない。そう思うのに体はどんどん熱くなる。周りの男に目を合わせれば飛んでもないことを口走りそうになる。 現実から逃げたくて血で汚れた床に目線を落とす。床を見ていると自分のズボンが盛り上がっていることに気づく。触れていないはずの股間が反応している。 カチッ‥ それを見た瞬間、箍が外れた。自覚してしまったんだ。誰でもいいから熱を吐き出させて欲しいと…

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