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リアムの過去 ①

「レノー様~。今日もお迎えに参りましたよ~」 軽くドアをノックして部屋の中へと入れば、俺の声に不機嫌そうに眉間に皺を寄せる白髪の紳士……。 「リアムの手は借りん……」 「え~っと……じゃあ、歩いて見ますか?」 俺の言葉に小さく頷くと、レノー様はベッドからなんとか起き上がり腰をかける。起き上がるだけですでに息が上がっているようにも見えるが……指摘すると怒るので見守る。 ベッド柵へと手をかけて立ち上がりまではできたがすぐにバランスを崩しベッドへと逆戻り……。 ハァァァ……と、それはそれは大きなため息を吐いた後、レノー様は忌々しそうに俺に視線をぶつけてくる。 「手を……貸してくれ……」 ようやく諦めがついたのか、最後はちゃんとお願いをしてくる辺りがレノー様の憎めないところだ。 「仰せのままに」 ニコリと笑みを浮かべてレノー様の体をいつものように抱えココの待つテラスへと向かう。 レノー様は俺に大人しく抱かれているが、眉間の皺はどんどん深くなっていく。 「抱かれ心地が悪いですか?」 「お前のような筋肉達磨に抱き上げられて喜ぶ理由がない」 「はは。そう言うのならば早く自分で歩けるようになって下さい、レノー様」 弱っていたレノー様も今では口だけは元に戻られたようだ。 「なぁ、リアム……」 「はい。どうしましたか?」 「いつになったらココに自分の正体を明かすつもりだ?」 「レノー様……。俺は自分の事は何も覚えていないんです……」 「私の前でもシラを切るつもりか? ……隣国の英雄ロンヴァルトよ」 久しぶりに呼ばれた本名にピクリと反応を見せてしまい、俺の反応を見てレノー様は眉間の皺をさらに深める……。 「ハハ……。英雄だなんて何を言っているんですかレノー様……」 「ふん。まぁ……よい。いいか。お前がどんな事情で英雄の名を捨てたなど興味はない。ただ……お前のいざこざでココを傷つけるような事があれば……分かっているな……」 つい数日前までは死にかけていたとは思えない威圧感にじわりと冷や汗がでる。流石、長年王家を裏で支えた国王の腹心レノー・ヴァントーラ……ゲスターなどとは格が違うな。 「ココを傷付けるような事は絶対にさせません。ココは俺の大事なご主人様なんですから……。どんな手を使っても守ってみせます」 俺の言葉にレノー様は不満そうな表情を浮かべていたが、それ以上俺の過去について問いただすことはなかった。 不完全だった俺の記憶は、万能薬を舐めた事により全てを思い出してしまう。 まさか、万能薬が記憶喪失にも効果があるなど考えもせずに口にしたせいで、思い出したくもない過去まで全て蘇ってしまったのだ……。

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