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序章⑴
「あぁ…沁みるわぁ…。」
「杜若、仕事中だぞ。」
“かきつばた”
私がそう呼んだ男は、公園の遊具に首を括り付けた若者へ寄り添っている。
ダラリと全身から力の抜けた人物は
既に息をしていない。
本来魂を導くはずの死神様は大層気分屋なお方であり、余程興味がおありでもない限り死を遂げた者を導くのは
我ら死神の仕いの役目である。
死神様に仕える事が出来る者もごく僅かで非常に名誉な事であるというのに。
この男はどうやらそれをわかっていないようだ。
「紅薔薇も面白いと思わん?
もう死んどるんに…こっちはビンビンなんやで?」
杜若は死体の股間を撫で上げた。
確かにそこは彼の言うように張り詰めている。
衣服を纏っていてもわかる程に。
「はぁ…ええわぁ。死神のおっちゃんに感謝せな。
こんな最高のモン見せてくれてありがとうって。」
「貴様いい加減に…!」
杜若とはいつも一緒だ。
死神様からの命令で、常日頃から共に仕事をこなしている。
どうだ、そろそろ800年を過ぎるだろうか。
そのくらい傍に居るのだ。
故にこの後、杜若が何を始めるのかなど容易に想像もつこう。
「んん~、堪らんわぁ…。お顔は真っ青やのにココは真っ赤やで。紅薔薇も見てみ?」
「私は死んだ人間に興味など無い。
……するならば早く済ませろ。」
「んっふふ。俺の事よぉ分かっとるやん。」
杜若の、この許されぬ行為に目を瞑るのは何度目だろうか。
杜若と私が魂を迎えに行く死体は、決まって杜若の餌食となる。
今目の前にいる死体も、あらぬ方向に首をひん曲げたまま
杜若の手によって服を脱がされ
硬直した後ろの穴に無理やり肉棒を押し込められる。
「んっ…はぁ~、気持ちいい…。
何でこんなきゅうきゅうやのに全然熱くないんやろなぁ…?」
熱を帯びた甘い声で
杜若は応える筈の無い死体に問う。
「あぁ…そうやった。あんた死んどったなぁ…。」
ギシギシと遊具が軋んで悲鳴をあげた。
だが太く頑丈なベルトは、持ち主がどんな状況に晒されていようと、首元を締め付ける力を緩めない。
「…杜若。それ以上揺らしてはこやつの首がもげてしまうぞ。」
あまりそのような行為を見るものではないとわかってはいるものの、
流石に首と身体が離れ離れになるのは胸糞が悪いだろう。
袖で目元を隠しつつ、杜若をちらりと覗く。
「んぅ…っはぁ、もう少し…やからっあ、ぁぁ…っ。」
容赦なく死体を突き上げる杜若の妖艶さに、思わず見惚れる自分が馬鹿らしい。
色白の肌が火照り、冷たい身体を強く引き寄せ、果てる。
長年付き添っていれば幾度となく見てきた光景ではあるが、
恐ろしい程色気を纏うその姿に赤面するのは毎度の事である。
こんな頭のおかしな変態を
いつまで想っているのだろうか。
どうせこのまま想い続けたとて
私が杜若の中でそのような対象になるのは、私が死に逝く時だけだというのに。
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