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第2話-4

 光里による性教育はあと三週間ほど続く予定だ。  身が持つだろうか。あの壮絶なエロフェロモンで性機能がマヒしそうだ。  しかし今は「次の目的地」のことに頭を切り替えよう。    新宿駅から西に向かう電車に乗って20分ほど、郊外にあるオンボロアパートの前で立ち止まる。  ふと、今から会う人物に思いを馳せ、急激に急激に心拍数が上がってきた。  深呼吸をしながら二階の最奥の部屋の前で立ち止まり、インターホンを押す。 「朝陽! いらっしゃい」    ドタドタと駆け寄ってきたのは黒髪短髪で長身の男前。    名は葵。朝陽と一緒にゲイビデビューをする頼もしい仲間だ。  ここ一週間、ラインで頻繁にやり取りするようになっていたのだが、今日は葵から会おうと誘われ自宅までやって来たのだ。    正直、光里とは別の意味で、かなりドキドキする相手だ。  葵は高校時代、全国的に名の知れた高校野球のエース選手だった。高校野球のファンだった俺にとって葵は特別な存在だ。誰よりも凛として輝いて見えて、夢中になって応援していた、俺のアイドル。  しかし悲劇が起こった。甲子園の準決勝、デッドボールが肩に直撃。痛ましく崩れ落ちる光景は今でも脳裏にこびり付いている。  そのまま退場した葵はそれ以来、二度と野球界に姿を現すことはなかった。    まさかそんな男が、次に姿を現すのがゲイビ界だなんて誰が予期しただろうか。 「部屋汚くてごめんね。適当に座っててー」    葵の一人暮らしの部屋は5畳ほどの狭いワンルームだった。庶民の朝陽にとっては清潔で広大な光里宅よりも、散らかって狭い葵の部屋くらいが落ち着いてちょうどいい。    ベッドの横に朝陽と葵、並んで座っただけで部屋がぎゅうぎゅうと窮屈に感じる。  そわそわしながら部屋を見回していると、葵が心配げな表情でこちらを窺ってきた。 「ねえ、部屋、くさくない?」    くさい?    部屋の臭いを気にするなんて体育会系男子なのに乙女のようだ。そのギャップが可愛くて思わずプッと吹き出す。 「くさくないよ」 「よかったぁ。俺汗っかきなんだよ。朝陽に臭いと思われたらいやだからさ」  汗というワードを聞いて、ふと、グラウンドで額に汗を流す葵の姿を思い出した。  汗を滴らせながら、いつも真剣な表情でバットを握っていた。そして敵を見据え前を向く、精悍な姿……。    いつも、いつも、葵の立ち姿に惚れ惚れしていた。    ……どうしよう。    今すぐ葵にしがみついて、汗のにおいを思いっきり吸い込みたい衝動に駆られる。きっと男臭くて濃厚で、たまらなく興奮する。

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