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 アルファとオメガには、出会えば必ず惹かれ合う“運命の番”というものが存在しているらしい。  しかし、そんなものは都市伝説と同じ。聖利には現実的ではない。  おそらく自分は両親と同じように大学を出て省庁勤務をし、アルファかベータの妻を迎えるのだろう。家庭を持ち、その頃にはきっと海瀬來の存在は遠い記憶の一ページになっているはずだ。  聖利はひとり勉強用の机に肘をつき、窓の外を眺めている。オリエンテーリングと歓迎会が終わり、数時間。すでに寝る仕度も済み、柔らかな素材のパジャマに前開きのパーカーを防寒のために羽織っている格好だ。時刻は間もなく消灯時刻。  ルームメイトはまだ戻らない。待っている理由もないので、先に寝てしまおうと聖利は勉強道具を片付け始める。起きていて、寮脱出の罪に巻き込まれるのは御免だ。 「本当に、なんでなんだろ」  ひとり呟く。なぜ來など好きになってしまったのだろう。  最初に出会った頃、十二歳の海瀬來は背こそ高かったもののあどけない顔立ちの美少年だった。  海瀬グループという大企業の御曹司だと、周囲は彼を特別視し、取り巻きになりたがる同級生は多くいた。聖利は美しさに目を奪われたものの、肩書で相手を見ることは嫌いだったので敢えて彼に近づこうとはしなかった。  意識したのは最初のテストで負けたとき。完璧だと思ったのに、張り出された一位のポジションにいたのは海瀬來だった。さらには、來が教師に対して「面倒だから勉強は一切していない」と言ったことにショックを受けた。  信じられない。必死に勉強して入学した学校。一位取るために努力し、挑んだ試験。彼は、適当にやって勝ててしまうのか。  その瞬間から聖利は來をライバル視するようになった。  來もまた、真面目に授業に取り組む聖利に興味を持ったようだ。それはライバルとしてというより、からかう対象としてだった。 『おまえ、ホント真面目ちゃんだよな』  最初に向こうから声をかけてきたのはそんな言葉だった。 『僕は普通だ』 『入試トップっておまえだろ。この前のテストで俺に負けて悔しい?』  あどけなく美しい顔で無神経に聞いてくる。嫌なヤツだ。そう思って挑むように答えた。 『そんなこと気にならない。どうせ次は僕が勝つから』

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