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自室に戻って鞄の中身を整理していると、來が入ってきた。この時間に部屋でかち合うのはめずらしい。
「さっき、見たぞ」
なんのことだろうと思った。振り向くと、來は不機嫌とも呆れたともつかない顔をしている。
「小村だっけ? 告られてんの見たっつってんの」
「覗きか、悪趣味だな」
「あんな目立つとこでやってんのが悪いんだよ」
ため息をつく聖利を挑発するように、ふんと來が鼻で笑った。
「期待持たせるような断り方して残酷だな。あいつ、聖利のこと忘れらんないじゃん」
「交際は断った。これで終わりだよ」
自分にはその気はなくとも、恋愛沙汰を來に見られたのはあまり嬉しいことではなかった。揶揄されるのはもっと嫌だ。
「どーだが。あっちはこれからも“同級生”としておまえの周りをチョロチョロする。おこぼれとチャンスを狙ってさ。聖利が隙を見せたら、あっという間に襲い掛かってくんぞ」
「余計なお世話だ。誰もが來と同じ下世話な考えじゃない」
「ああいう下心の塊は、完膚なきまでに叩きのめして振ってやらなきゃ駄目なんだよ。それとも、そうやって気のある振りして親衛隊を増やしてんの?」
人の気も知らないで。そんな言葉が口を突いて出そうになったものの、ぐっと飲み込む。代わりにつかつかと歩み寄り、聖利は背の高いルームメイトをじろりと睨んだ。
「本当に下品だな、おまえは。親衛隊とはなんだよ。僕にそんなものはいない!」
「自分が男を惹きつけてるって気づいた方がいいぞ。ツラだけ見りゃ、その辺の女よりずっと綺麗じゃねぇかよ。おまえの細い身体を思い浮かべて自分を慰めてる男が何人もいるって知ってんだろ?」
來がさらに挑発的なことを言い、聖利は遠慮なく來の襟首を掴んだ。來より上背はないが、一般の生徒よりは鍛えている。敵わなくても、ここで弱腰な対応をしたくはなかった。
「誰かれ構わず誘っていると言いたいようだな。來の中で僕はさぞ貞操観念の薄い男なのだろう」
「違ったか? 誰か一途に想う相手がいるとか?」
ああ、いる。想う相手なら、今目の前にいる。
こんなに腹立たしい男なのに、どうしてか惹かれてしまう。
「学校生活に必要のないことで騒ぎ立てないでくれ。そもそも、恋愛関係は周囲が口を挟むことじゃない。僕に何があろうが、來には関係ない」
こちらがどれほど來を想っても、この男には通じない。どころか軽薄で節操無しな質だと思われているようだ。悔しいような悲しいような気持ちになり、睨んだままぎりっと奥歯を噛みしめる。
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