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ここ数日、熱っぽいとは感じていた。新生活に気張っていたせいで、一時的なものだろうと深く考えなかったのだが。
間もなくゴールデンウィーク。イギリスにいる両親が休みを合わせて帰国してくれる約束になっている。三人で久しぶりに食事を予定しているのだ。タチの悪い風邪などひいては、両親に会えない。
そうこうしているうちに、いよいよ身体はおかしくなってきた。熱い。頭も痛いし、吐き気もある。身体の奥からどろどろとした何かが溢れてくるような不快感がある。
体調の異変を自覚しながら、ランニングなどすべきではなかった。
「もう、切り上げよう」
聖利はひとり呟いたが、その声がひどく震えていることに気づいた。熱も出てきているようだ。インフルエンザなどであれば、來に移してしまう前に保健室に隔離してもらわねばならない。
よろよろと寮に戻った。手足が焼け付くように熱い。身体が石のように重い。シャワーは後回しだ。
自室のドアを開けると、來は起きていた。ベッドに座り、胸を抑えうつむいている。聖利が一歩室内に入ると、弾かれたように顔をあげた。
「聖利……おまえ」
「來、寄らないでくれるか。どうも風邪を引いているみたいだ。移すわけには……」
次の瞬間、來の大きな体躯が目の前にあった。
寄るなと言ったのに。文句を言う前に、ドアに追い詰められ、抱きすくめられた。
何が起こったのかまったく把握できない。來が自分を抱き締めている。聖利は目をしろくろさせて、言葉をなくした。
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