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「……当たり前だろ」  聖利の言葉に、來がにっと口の端を引き上げた。 「俺が張り合ってやった方が、優等生様はやる気でるみたいだし? それに、俺のお袋はオメガだ。バース差別なんかしねーよ」 「そうか。そうだったんだ。なんだか少し安心した」  気が緩み、思わず子どもみたいに笑ってしまうと、來が聖利の顔をじっと見下ろしてくる。次の瞬間顔を近づけ、うなじに鼻先をくっつけてきた。 「っ……!」  聖利は言葉にならない声をあげ、凍りついた。突然の接触だ。  しかし、すぐに來は顔を離し、無邪気に破顔した。 「うん、甘い匂いはしなくなってんな。俺、鼻が利くから、たまにチェックしてやるよ」 「ああ……そうか。親切にどうも……」  動揺を押し隠し、聖利は頷いた。やはり同室は心臓に悪い。來はまったくその気はないのに、自分ばかりが意識してしまって恥ずかしい。 「あと、いい機会だからスマホ教えとけ。なんかあったら飛んで行ってやる」 「來が? 期待してないが」 「ばーか。この前、聖利を抱えて走った俺は王子様みたいだったぞ」 「王子様……大きく出たな、おまえ」  ふざけた応酬をしながら、互いのスマホを取り出した。  こんな些細な瞬間が嬉しい。  以前と変わらぬ関係に戻れそうだ。あのとき抱き合ってしまっていたら、きっと自分たちの未来は変わっただろう。  これでよかったのだ。あの朝の出来事は、早く忘れてしまおう。  

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