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來はどう思っているだろう。フェロモンのせいで、あんなことをさせてしまった。
聖利からしたら、恥ずかしくも嬉しい出来事だった。一生叶うことはない想いの一端を遂げられたのだから。好きな男とのキスはいまだに聖利の胸を熱くする。
反対に、來はさぞ不快で後味悪く思っているだろう。申し訳ない。巻き込んでしまったことを謝罪すべきだ。
勇気を出して軽くノックする。返事を待たずにドアを開けた。
そこには制服姿の來がいたゴールデンウィーク中は彼も実家にいたのだろうか。大きめのデイバッグがベッドの上に乗っていた。
聖利の顔を見て、來が切れ長の美しい眼を大きく見開いた。
「聖利……」
「來……先日は」
「身体はもういいのか?」
くい気味に尋ねられ、勢いで聖利は頷いた。
「ああ。どこも問題ない」
答えてから荷物のボストンバッグをベッドにおろし、あらためて來と向かい合った。真摯に見つめると、心臓がばくばくと大きな音をたてた。唇を引き結んで、がばっと頭を下げる。
「ヒート発作のときは、本当にありがとう。おまえに助けられた。……それと、すまなかった」
フェロモンに影響されたとはいえ、自分たちは危ういところだった。來にとっては、所謂黒歴史になっているかもしれない。
「意に添わぬことをさせた。僕のフェロモンのせいだ。本当にすまない」
「あれはまあ、……仕方なくねぇ?」
來が髪を掻き上げ、視線を逸らして言う。
「俺の方こそ頭やばくなってたし。微妙に記憶飛んでるし……」
記憶が飛んでいる……。その言葉に安堵した。あんな痴態を覚えていてほしくない。
「な、聖利」
「なに……」
來が聖利をじっと見つめてくる。真剣なまなざしに不覚にも胸が高鳴ってしまった。
「おまえは俺のこと、怖くないか? 一緒の部屋で」
どうやら、來は気遣ってくれているようだ。
オメガを理由に寮三役に願い出れば、部屋は代えられるかもしれない。想い人と同室という緊張感から解放される。しかし、今の聖利には來との同室を解消したくない気持ちも芽生えていた。
近くにいたい。もう何も起こらなくても、來のそばにいたい。
「僕が來を怖く思うわけないだろ。それに、僕はまだオメガとしても完全じゃない。転化オメガは抑制剤がよく効くそうだし、薬さえ飲んでおけば今まで通り暮らせる。だから」
聖利は歩み寄って、來を見あげた。
「できれば、今まで通り接してほしい。特別扱いせずに」
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