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入院期間中に聖利の学園での処遇は決まり、今までどおり在籍できるという返答がきた。
これは両親が医師の診断書を持って学校側に掛け合ったことが大きい。“バース性を問わない”を謳い文句にしている修豊真船学園としては、ヒート発作時も周囲に影響なく過ごせるのであれば、優秀な学生を退学にする理由はないとの見解だそうだ。本音は別としても、聖利を追い出すことはできないのだろう。
また、後々学園の保険医から聞いたことだが、今回の件で事情聴取された來が『たいしたヒートではなく、アルファの自分でも問題なく対処できた』と多少誇張して報告したのもよかったようだ。
アルファに影響が少ないということなら、学園側はさらに拒否できなくなる。
しかし、聖利の学生登録は変更となる。あくまで書類の上だが、アルファの記載が消され、オメガの印が押される。これは生徒会にも寮三役にも伝わることとなり、学生のみ閲覧できる名簿にも載る。
聖利が復学する頃には、学園中が転化オメガである聖利の存在を知るところとなった。
「じゃあね、父さん、母さん」
連休最終日、修豊真船学園の正門前で、車で送ってくれた両親と別れた。父と母はこれからイギリスに戻る。
ゴールデンウィークは、両親と近場に日帰り旅行をしたりボードゲームをしたりして、子ども時代のように過ごせた。リラックスした時間のためか、聖利は多少気持ちが楽だった。
知樹や他の友人から気遣う連絡が入っていて、彼らの口から自分のバース性について、多くの生徒がすでに知っていることを理解した。秘密にするようなことではない。むしろ、注意喚起のためには知ってもらう必要がある。
しかし、物珍しい目で見られたり、あからさまな差別を受けることも想定された。
(そうなったら、実力で黙らせればいいだけだ)
自分を鼓舞するように、聖利は思った。
校門を入ったところで知樹たちが待っていてくれた。
「久しぶり」
「元気そうじゃん、聖利」
「つか、痩せた? 筋肉落ちた?」
遠慮なく絡んでくる友人たちに笑顔と軽口を返しながら、聖利は寮へ向かった。好奇の視線は感じるが気にしないようにする。明るく接してくれる友人たちのためにも、こちらも明るくあろう。
ただ、自室前に到着したときは、緊張で手が震えた。
來と会うのはあの日以来となる。
來の連絡先を知らないので、入院とゴールデンウィーク期間はまったく連絡がとれなかった。ひと言礼をと思いながら、今日まで来てしまったのだ。
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