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「いや……」  ひとり呟いた聖利を両親が心配そうに見つめる。聖利は眦を決して顔をあげた。  駄目だ。來に負けていられない。  医師は、個人の能力は変わらないと言っていた。それなら今まで通りに努力を続ければいい。アルファでもオメガでも関係ない。  來に無様な姿を見られるくらいなら死んだ方がマシだ。來のライバルでいたい。來に勝って胸を張りたい。 「オメガだって、負けないよ。今まで通り頑張ってトップを守る。父さんと母さんの自慢の息子だと証明するから……!」  不意に、母が聖利を抱き締めた。幼い子どもにするような母の行動に、聖利は驚いて目を見開いた。 「いいのよ、あなたは充分自慢の息子。バース性は関係ないわ」 「そうだ。俺たちは動揺して聖利を傷つけてしまったな。すまない。アルファでもオメガでも、おまえの思う通りに生きてくれれば、父さんと母さんは何も言うことはないよ」  父も聖利の頭を撫で、そう言ってくれた。思えば、遠い赴任地から駆けつけてくれた両親が、自分を愛していないわけがない。まだ何もわからないし、完全には受け止められない。不安ばかりだけれど、両親だけは味方なのだと思うと、少しだけほっとした。  そうだ。これほど愛してくれる両親のために、できることをするしかないのだ。 「しっかり休みも取ってきたし、あなたの入院中も一緒にいるからね。ゴールデンウィークは家族水入らずにゆっくり過ごしましょう」 「学校の手続きは父さんたちに任せなさい。……そうだ、聖利を助けてくれたルームメイトくんには御礼を言わないといけないな」  父の言葉で再び來の顔を思い浮かべる。  抱きかかえて運んでくれた來の力強さを覚えている。唇が熱かったことも、触れられたところに電流が奔ったようになったことも。熱い肌、來の匂い。忘れたくとも忘れられない。 「事故が起こらなくて本当によかった。そのお友達には感謝してもしきれないわね」  事故とはレイプなどの性被害である。アルファもオメガもヒート発作には抗えない。そのため、過去も不幸な事故は起こってきた。今回は聖利のファーストヒートが軽かったことと、何より來が不屈の精神で正気を取り戻してくれたことで、事故を防げたのだろう。 「よく礼を言っておくよ」  両親の前で赤面もできないので、聖利は精一杯平静をたもち、わずかに頷くだけにとどめた。  オメガとして來に並び立つ。負けないライバルでいる。  それは、聖利の密かな目標となり、寄る辺ない今の心を支える指標となっていた。

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