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 意を決して聖利は立ち上がった。斉藤と木崎に向かってなるべくにこやかに言う。 「悪いけど、誰かと交際する気はないんだ」 「でも、楠見野」 「オメガだからって、すぐに誰かと番にならなければいけないわけじゃないだろう? 僕たち、まだ高校一年なんだ。そんなに簡単に未来は決められないよ」  穏やかで理知的な回答に、ふたりが黙る。知樹が慌てて「ほら、ホームルーム始まるから」とふたりを追い払った。  聖利は小さく嘆息し、知樹に礼を言ってから席に座り直した。教師が入ってくる。  はっきり断ったが、あのふたりが簡単に諦めたようには見えない。オメガという存在は思いのほか、アルファの心情を掻き乱すのかもしれない。  懸念は当たり、この日以来聖利は何人ものアルファに求婚されることとなった。同級生だけではなく、二年や三年の先輩もいる。堂々とクラスにやってきて告白する者もあれば、そっと呼び出し密かに告白してくる者もいる。  皆、自身の能力にも可能性にも自信のあるアルファたちだ。告白は真剣で、聖利が自分を選んでくれるはずだという確信に満ちていた。  もちろん、聖利はすべて丁重にお断りをした。  中でも腕を掴みキスをしてこようとした二年生は、正当防衛とばかりに投げ飛ばしてやった。悪いが、一般の生徒よりは鍛えている。その噂が広まると、求婚者はまた増えた。  もっと差別的な扱いを受けると思っていたのに、どうなっているのか……。  困ったことに、番希望者の中には副寮長の添川もいた。三年生の彼はメガネをかけ、髪をぴしっと撫でつけた厳しそうな男である。色恋に関心があるようにはとても見えない。 「俺と一緒にいれば、学園内でも寮内でも不便はない」  添川はこちらを好きだと言わない。メリットだけを淡々と口にする。 「いずれはきみのことを三役に引きたてたい。そのためにも寮役員に入りなさい。俺の卒業までに根回ししてやれる」  寮役員とは寮三役の下で雑務を手伝うメンバーのことだ。ほとんどが三役と親しい三年生で占められ、ごく一部の二年生が寮長付き、副寮長付きという形で直属の秘書役を務める。この二年生たちが次期三役になるのは暗黙の了解だ。 「きみにとってはいい話だろう。だから、俺の番になるといい」  プライドが高いのだろう。年下のオメガ相手に交際を嘆願はしたくない。だから、聖利から願いでるようなメリットをあげている。当然ながら聖利は頭を下げ断った。 「今は誰とも交際する気はありません」

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