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「この学園では早く番を作った方が安全なのに?」  どこか馬鹿にしたような言い方にかちんとくるものの、聖利は黙る。 「有力なアルファを味方にしてオメガというか弱い身を守るべきだ。きみは賢いからわかっていると思ったのにね」  話にならない。下に見て、番になってやるだなんて差別的だ。  聖利は笑顔で言い切った。 「申し訳ありません。僕はこれで」  添川は苛立ったような視線を投げるものの、それ以上何も言わなかった。  これが復学から一週間の聖利の身の回りの出来事であった。  ヒートを起こさなければ、オメガでも安心かと思ったのに。アルファは予想以上にオメガへの憧れがあるようだ。希少種というだけではない。どこかに“運命の番”がいるのではと夢を見てしまうのもまたアルファなのかもしれない。  ずっと、來に片想いしてきた聖利にはそんな存在を信じる気持ちはなかった。アルファ同士に運命は存在しないのだから。  添川の告白に疲れ果てて自室に戻ると、來がいた。來は週のうち何日も学園外に脱出したり、学園内をぶらぶらしていたりして、部屋に居着かない。  夕食に参加するのは週の半分ほど。今日は出かけない日らしい。ベッドの上で漫画雑誌を読んでいる。 「おかえり。修豊真船のプリンセス」  身体を起こしてにやりと笑う。ふざけたことを言われ、聖利は苛立たしく鞄を置いた。 「からかうなよ。こっちは大変なんだ」 「見てりゃわかるよ。どいつも必死ですげえウケるな。学年首席の美人がオメガだったもんだから、番の欲しいアルファは目の色変えてやがる」 「冗談じゃない。手近にオメガがいたからって、それで間に合わせようとするか? 頭がおかしい!」    苛々と返す聖利。來が自分の机の上に乗っていた缶コーヒーを放ってくれるので、キャッチした。まだ冷たい。 「落ち着けよ、短気なプリンセス。あながち、連中手近で済ませたいわけじゃねえよ。みんな、おまえに思うところがあんの。気になったり、声かけたいって思ってたんだろ? 学園トップクラスのアルファを簡単に口説けないけど、オメガなら口説く理由になるかも……ってこと」  馬鹿らしいと言いかけて、否定しきれないと思った。  相手が自分より優れたアルファなら、男として声をかけづらいという気持ちはあるだろう。性差を理由にすれば、口説くハードルが下がるというわけか。

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