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 頭を下げた聖利に、三井寺が明るい声をかける。 「修豊真船は、バース性にとらわれない。きみのような優秀な生徒なら大歓迎だよ。ねえ、みんな」  その場にいた役員たちがなごやかに拍手してくれる。よかった、思いの外拒絶反応は見られないようだ。 「じゃあ、今日は生徒会の簡単な紹介をするよ。仕事の内容は副会長から。ちょっと待っておいで」  三井寺が一度席を立つと、隣から声が聞こえた。聞こえるか聞こえないかというくらいの、ほんの小さな声だ。 「しゃしゃり出てんじゃねーよ。オメガの分際で」  見れば、隣でつんとした顔で座っているのは文系クラスの同級生だ。確か直本(なおもと)と言ったはず。聖利よりずっと早く生徒会を志望してここにいるのだろう。入会時期をすぎて加入を申し込んできたのが、学園唯一のオメガでは面白くないに決まっている。 (なるほど、差別とはこういうことか)  怒るより聖利は納得した。選民意識の強いアルファからすると、並び立たれたくない存在がオメガなのだろう。 (やはり実力を見せるほかないな)  妙にやる気を感じながら、聖利は三井寺に呼ばれるままに立ち上がった。  その日は生徒会の仕事を教えてもらい、正式な入会手続きの話を聞いて寮に戻った。夕食まで少し間がある。來もいない。今の内に課題を済ませてしまおうと机に向かうと、クラスメートが呼びに来た。 「楠見野、高坂寮長たちが呼んでる。サロンだ」 「……わかった」  サロンとは寮の談話室である。誰でも使っていいが、奥まったスペースだけは、寮長をはじめとした三役と寮役員が使うことになっている。聖利が向かうと、そこには三役と役員が揃っていた。 「お、楠見野、どうした?」  高坂が親しげに声をかけてくるが、用事がある様子ではなさそうだ。呼びだしたのは高坂ではなかったのだろうか。聖利が答えに窮していると、副寮長の添川が言った。 「呼んだのは俺だ。……楠見野、きみ生徒会に入ると聞いたぞ」  もうそんな話が回っているのか。四百人足らずの小さな社会では、噂も早い。いや、生徒会と三役は近しいらしいし、直接話があったのかもしれない。 「まだ正式に所属願いは出していませんが、僕は志望しています」  聖利は素直に答えた。

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