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「きみのことはいずれ三役になれるよう勉強してもらおうと思っていたのに」  添川が厳しい表情で言った。そういうことを周囲に明らかにしていいものなのかわからず、聖利は戸惑った顔をする。 「生徒会は断るべきだ」 「いえ、添川副寮長、僕は生徒会に……」 「俺がきみを引きたてると言っただろう」  苛立たしげな声に、集まったメンバーが押し黙った。日頃物静かな添川の意外な態度に、妙な空気が流れる。同じ副寮長の島津が添川をたしなめようとすると、それを制して口を挟んできたのは高坂である。 「こらこら、添川。楠見野に期待していたのはわかるが、それを決めるのは楠見野本人だ」  悪くなった空気を執り成すように、苦笑いをして明るく言うのだ。 「生徒会で仕事をしたいだなんて、志が高いじゃないか。応援してやるべきだ。それに、楠見野は融(とおる)とタイプが似ている感じがする。きっと彼から、学ぶところが多いと思うな」  融というのが、会長の三井寺のことだとすぐに気づいた。なるほど、名前で呼ぶくらいに高坂と三井寺は仲がいいのだ。 「あれ、三役がお集まりで」  そこに登場したのが、当の生徒会長だ。高坂が名前を呼び、親しげに片手をあげて挨拶をする。 「楠見野が生徒会に入りたいって言うのを聞いてさ。よろしくな」 「なんだ泰二(たいじ)、きみ保護者みたいな口を聞くね。言われなくても楠見野はうちで頑張ってもらう予定だよ。な?」  高坂のことも親しく名前で呼び、三井寺が聖利の方を見てにっこり笑った。  このやりとりが決定的だったようで、添川が忌々しそうに息をつき、無言でその場を離れていった。 「悪いな、楠見野。添川は、おまえに格別期待していたみたいなんだ。バース性に囚われない修豊真船の考え方を体現しているって言っていた。後輩ながら、尊敬していたんだと思う」  おそらく高坂は添川が聖利に告白をしてきたことを知らない。彼が聖利に対して、差別的な発言をしたことも知らない。添川は、表向きは人格者のタイプなのだろう。 「気にしないで、楠見野の思う通りにやってくれ。俺は生徒会入りを応援するぞ」  高坂の熱のこもった激励に、三井寺が腕を組み、ふふ、と笑った。 「修豊真船はバース性にとらわれないなんて言っておきながら、こうして楠見野が現れるまでオメガを受け入れていない。俺としては、楠見野にいずれ生徒会長になってほしいものだね。学園側をあっと言わせてやりたいよ」 「それはいいな!」  その場にいた人間に明るい空気が流れる。差別ばかりを気にしていたけれど、少なくともこの学園を仕切るふたりの三年生は懐が大きく、考え方も先進的だ。 「三井寺会長、明日正式に届けを出しに伺いたいと思っています」 「ありがとう。待ってるよ」  聖利は頭を下げ、場を辞した。

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