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第13話 交尾 *

 安齋の熱は吉田の躰を焼き尽くしてしまいそうだった。彼に触れられた場所が、まるで火傷をしたかのようにジリジリと痺れた。 「は、……ん」  熱い舌先が皮膚の上を蠢く。腕を取られてはったとすると、彼は、数日前に自分がつけた噛み跡を眺めていた。 「それは――」 「噛んでほしいのか」 「――噛んで、ください」  赤く腫れているそこを、安齋は舌で、唇でなぞる。それだけで、躰の奥底が疼いてたまらなくなった。  ――好きじゃない。好きじゃないはずだったのに。今は好き。安齋さんが好きすぎてどうにかなりそう。 「あ……あ、んん」  甘い吐息が唇から漏れると、安齋が口元を緩めた。 「薬のせいだけじゃないな。吉田。そんなにおれに触れられると感じるのか」 「そ、そんなんじゃあ……ひっ」  二の腕の柔らかい部分を音を立てて口づけをされると、たまらずに声が上がった。 「くすぐったいです」 「それは、くすぐったいではなくて気持ちがいいの間違いだろ?」 「あ、ああ……ッ」  腕を取られたまま、安齋の唇が吉田の口を塞ぐ。不躾に差し込まれた舌で歯牙を撫で上げられると、口の中いっぱいに安齋の味が広がった。  目尻が熱くなり、涙が溢れた。  それでも容赦なくキスは続く。その合間にも、安齋の大きな手のひらは吉田の堅く大きくなっている下腹部を撫でた。服の上からであるせいか、余計に期待が高まる。 「あ、……あ、安齋、さ……ん」 「なんだ?」 「さ、触ってください」  ――もー、泣きたい。  吉田のそんな仕草が安齋を煽っていることなど、彼には知る由もない。  安齋は情欲に駆られた本能の色を瞳に宿し、そのまま吉田の臍に手を這わせる。 「ここか?」 「ち、違……、」 「ではどこだ?」 「そ、そんな意地悪しないで」 「じゃあ、自分で出せ」 「……っ」  安齋に見据えられて、視線を外すことができない。まるで獣。少しでも視線が外れたら――安齋は飛びかかってきそうだ。  吉田は安齋を見つめたまま、両手でベルトとボタンを外す。訳が分からなくて手元がおぼつかないのに、安齋から得られる刺激を期待して、必死だった。  下着をずり下げ、興奮のためか立ち上がっているそれを根本から外に取り出す。その様を眺めていた安齋は、「ふふ」と笑った。 「こんなにして。はしたない男だ。神野(じんの)のせいか」 「違います。あの、だって……」 「じゃあ誰を思った」 「安齋さんしか、いないじゃないですか」  安齋の細い指は、吉田の先を撫でる。 「あ――っ」 「卑猥だな。吉田。先が濡れているぞ。おれに見られるのがそんなに興奮するか。自分でしてみろ」 「や、やです」 「ならそのままいろ。おれは風呂にでも」 「待ってください!」  吉田は躰を起こすと、安齋のシャツを掴んだ。 「や、やります」  いつもどうしていたのだろう? ここのところ、安齋とのセックスばかりで、自慰など久しい。右手で握り込んで、それから上下に動かす。しかし、安齋の視線が怖くてうまくいかなかった。  たどたどしい手つきなのに。彼に見られているということだけで気持ちが高まった。 「あ……あ、あん――」 「そんな危うい手つきなのに感じるのか」 「だって。安齋さんが見て」 「手伝ってやろう」  安齋は吉田の手ごと握り込むと、それを上下に動かした。 「あッ……ひゃ……んん」  溢れ出てくる液体が纏わりつき、グチュグチュと卑猥な音を立てた。 「や、やだ……んん、出ちゃう」 「大丈夫だ。神野の薬の効果はまだまだありそうだ。何度でも出せ。じゃないと辛いぞ」 「あ、ああん」  自分の手の感触なはずなのに、思うようにならないもどかしさが、吉田の気持ちを責め立てる。 それはあっという間に絶頂を迎えた。なのに、安齋は容赦ない。そのまま吉田を咥え込み、舌で舐め回した。 「ひゃぁ……っ、はっ、はっ、だ、駄目です……安齋さ……んん」  つい先ほど放ったばかりのはずが、すぐにその刺激で熱を取り戻す。これが薬――媚薬の効果。  熱い口内で包み込むように扱かれると、すぐに射精を繰り返した。  口元を拭う安齋はギラギラとした瞳で吉田を見下ろす。  二度吐き出したはずのそこは、まだまだ熱が収まることを知らないかのごとく、どくどくと脈打ち、熱くなるばかりだ。 「苦しそうだな。吉田」 「なんなんですか。これ。まだ出したい。だめ」 「面白い薬だ。今度、神野を脅して手に入れよう」 「なっ……」  終わりが見えない。  安齋の手で、口で。何度もイカされているというのに、躰は言うことを聞かなかった。 「朝まで楽しめそうだな。吉田」 「いや……そんなの、だって」 「好きなくせに。喜べよ」  足を持ち上げられて、押し広げられたかと思うと、後孔に安齋が入り込んできた。 「はっ……あん」 「後ろも柔らかくなるらしい。いつもはお前を気遣うとそう何度もというわけにいかなかったが。今日はそんな気遣いはいらないな」  ――いつもだって朝までコースじゃない。それが、本気じゃなかったってこと!?  腸壁から伝わる安齋の熱は昂っているのがよくわかった。  ――嘘でしょ!? 無理無理無理ーー。  グチグチと粘膜が擦れる音が耳を支配し、思考回路は停止した。 「はっ、……あ、あ……ん」 「どうだ。吉田。お前の中は気持ちがいいぞ。そんなに吸い付いて。淫乱」  足を押し広げられて、上から体重をかけるように奥深くまで入り込んでくる安齋の熱に、息が上がった。 「安齋……さん」  絡み付くような感覚は一時。すぐに慣らされるそこは、安齋を深くより深くと受け入れた。 「キスしてください」  ねだるように差し伸べた吉田の手を、安齋はしっかりと握りしめ、それから躰を引き寄せる。肌と肌が密着して、奥底まで突き下される感覚に、悲鳴にも似た嬌声が吐息とともに漏れ出た。 「もっと、安齋さんが欲しい――」 「淫乱、底無しだな」  小刻みに打ち付けてくる安齋の腰の動きに合わせて、吉田の声も途切れた。そんな自分が発する声にまで興奮をして酔いしれるだなんて。やはり薬のせい以外には、考えられなかった。

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