26 / 41

第五章 里帰りと置き土産 4 夜、お風呂で

 夜の九時過ぎ。木枯らしが窓を叩く。カタカタと小刻みに窓が揺れる。  遼真はいまだ帰らない。今日はなるべく定時で上がってお土産にケーキを買ってきてくれると言っていたのに、連絡すら寄越さない。でも仕方ないのかもしれない。年の瀬はどこも忙しいのだ。  一服するなどして十時まで待ち、それでも帰ってこないので、馨は先に風呂に入った。普段ならいくら遅くても気長に待つのだが、今夜は期待していたせいで余計に寂しさが募る。  真冬の夜でも、風呂は変わらず温かい。一人で入れば広くて良い。たっぷりのお湯にゆったりと体を沈め、馨は溜め息を漏らした。  もくもくと立ち昇る白い湯気をぼんやり眺める。窓があれば、開けて露天風呂気分に浸れるのに、残念ながらこのマンションは浴室に窓がない。天井から湯気が滴り、水面に波紋を描く。  馨はそっと自分の胸を撫でた。取り留めもなく、漫然と撫で回す。ふと、グミのような弾力ある突起が指の間に引っ掛かった。撫でるほどに固く尖ってくる。指先で摘まんで捏ね回し、先端を押し潰すように引っ掻く。左胸だけじゃ物足りなくなり、右胸にも手を這わした。両方の胸を手で押さえ、親指と人差し指で挟んでくりくりと弄り回す。  馨は目を瞑って妄想を膨らませた。今自分は遼真と二人で風呂に入っている。遼真に後ろから抱きかかえられ、不埒な悪戯をされている。いやいや言いながら、その実全く嫌ではない。もっと過激なことをしてほしい。もっと、下も触ってほしい。もっともっと奥の方まで来てほしい。 「……りょーま」  けれど、妄想と現実は乖離している。今馨は一人ぼっちだし、体を撫で回している手も自分のものだ。思えば、遼真の手は馨のそれとは大分違う。遼真の手はもっと大きく、指はすっきりと細長く、表面は滑らかな感じがした。それに、爪は常に短く切り揃えられ、清潔に保たれている。 「ん……」  なんだか虚しいような気がしないでもないが、火のついた体は治まらない。張り詰めた中心ではなく、それよりももっと奥の秘められた箇所に指を沈めた。 「ふ……んん……」  やはり遼真の指とはまるで違う。いいところにうまく当たらない。普段、遼真はどんな風に愛撫してくれているんだっけ。目を瞑って思い出しながら指を動かしてみるが、弄れば弄るだけ切なくなってくる。腹の奥の方が切なく疼く。前に一人でした時はこんな風にはならなかったのに。体がどんどん作り替えられているみたいだ。 「はぁ、ん……りょーま……」  馨は膝立ちになって浴槽の縁に齧り付いた。尻側から手を這わせ、夢中で指を抜き差しする。動く度、ちゃぷちゃぷと波が立つ。湯気の滴る音と換気扇の回る音と、余裕のない息遣いが反響する。 「んぅ……ぅぅ、りょ、まぁ……どういて、はぁ、どういて、帰ってこないがじゃ……りょーまぁ」 「……ただいま」  ドアの方から声がした。馨は固く閉じていた双眸を目一杯見開く。泣きたくなるほど待ち焦がれた想い人の姿がそこにはあった。 「ごめん、遅うなって……」  気まずさと申し訳なさが入り混じったような声音。しかしその瞳は確かに熱を孕んでいた。 「僕を待って、一人でしよったの?」 「ぁ、ち、これは……」  馨ははっとして指を抜いた。 「けど、僕の名前呼びよったろう。僕にされる妄想でもしよった?」 「ち、ちが……」  あまりの恥ずかしさから、馨は遼真を直視できない。それなのに体温はぐんぐん上昇していく。顔も体も、既に十分火照っていたはずなのに際限なく熱くなっていく。  遼真はおもむろに服を脱ぎ始めた。ベルトを外し、ネクタイを解き、裸になって浴室に踏み入る。腰のものは猛々しくそびえ、太い血管が力強く浮き出ている。馨はごくりと喉を鳴らした。 「りょ、ま……」 「馨ちゃん……いいよね?」  ついに背後を取られ、馨は期待に胸を膨らませる。 「ちゃんとこっちにお尻向けて」  引けてしまった腰を強引に掴まれ抱き寄せられた。切望した熱い大きな手に触れられ、限界まで性感が高まる。心臓が狂ったように早鐘を打つ。どきどきしすぎて気が狂う。 「っ、待っ……」  蕾に先端が押し当てられる。熱くて、それだけで溶けてしまいそうだった。ああ、もう来る。入ってきてしまう。くる、くる、きて―― 「挿れるね」  指の数十倍はあろうかという肉の塊に、ズドンと貫かれた。水面が大きく波打った。 「ひぃ゛ッ――!?」  馨は歓喜に震えた。指では届かなかった気持ちいいところを、ピンポイントで真っ直ぐに突かれる。すると、まるで圧迫されて押し出されるかのように、鈴口からとろとろと精液が漏れ出た。 「ひっ!? あッ、ぁぐ、や、ぁ、あぅ゛っ、」  突かれる度、とろりとろりと精液が溢れる。初めての感覚に混乱するが、体は勝手に快感を拾って跳ねる。抑え切れない嬌声と、激しく腰を打ち付ける音、いやらしい水音とがやたらと反響してうるさく、それらを興奮材料に馨はますます昂っていく。 「馨ちゃん、挿れただけでイッたが? ほんま、かわいらし……」 「んゃ゛ッ、ぃ、言いなやぁ、あ゛ッ」 「はあ、初めて、ナマでしてもうた……まっこと気持ちえい、馨ちゃん……」  ああそうか。普段と何か違うのは、避妊具を着けていなかったせいか。道理で、体の内側から焼かれるような思いがする。溶けた鉄の棒と紛うほど熱いそれが、馨の中を出入りする。腹の奥を穿たれ、そしてまた精を漏らしてしまう。 「あぅ、っ……ぁ、あつい、りょーまぁ、あつぃ」 「ん……僕も、もう……」 「あぅ、あッ、ぁ、りょーまぁ……」  内側の熱さも然ることながら、ここはとにかく蒸し暑い。白い湯気が頭の中にまで立ち込め、視界が白くぼやけていく。頭がくらくら、足元はふらふら、意識までがだんだん遠のいていく。  突然、中を埋めていた熱い肉棒が抜けていく。馨は一抹の寂しさを覚えたが、息つく間もなく尻に温かな液体が放たれた。温かくて柔らかくて、心地よかった。馨はうっとりと腰を震わせた。  遼真は息を切らし、背後から馨を抱きしめる。髪の毛をよけて首筋に噛み付くようなキスをする。馨も振り向いて唇を寄せ、しばらく舌を絡め合った。    *   「ほいたら、わしゃ飯の準備しゆうき。おまんもしゃんしゃんしぃや」  疲れ果てたように湯船に沈んだ遼真を残し、馨は先に風呂を出た。  遅い夕食を済ませ、お待ちかねのホールケーキを切り分ける。馨の期待通りのものを、遼真は買ってきてくれた。しっとり焼けたスポンジと、口当たり滑らかなホイップクリーム、甘酸っぱいイチゴのバランスが絶妙で、これなら無限に食べられそうな気がした。

ともだちにシェアしよう!