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第五章 里帰りと置き土産 3 朝、ベッドで
馨が職に就いた。といっても、週に二、三日程度の気楽なアルバイトである。シフトは平日の昼間だけで、遼真が帰宅する頃には馨も帰ってきており、今まで通り夕食を作って待ってくれている。
ちょっとバイトでもしてみようと思う、と馨に切り出された時、正直なところ遼真は驚いた。今までそんな素振りは全くなかったし、一人暮らしをしていた時も働いているんだかいないんだかよくわからない状態であったから、てっきり仕事が嫌いなのか働けない理由でもあるのかと思っていた。
馨一人養える程度は稼いでいるから心配しなくてもいいと遼真は言ったが、馨は首を横に振る。そういうことじゃないのだと言う。やりたいことがあって、そのために少々金が必要なのだった。そう言われては、遼真には反対する道理もない。
そうして働き始めて数週間が過ぎ、ある程度金が貯まった馨は近所の剣道場へ通い始めた。練習は週に二、三回程度、基本的に平日の夕方から夜にかけて行っているらしい。夕食の席で、馨は昼間あったことを遼真に逐一報告してくれる。今日の仕事は楽だったとかきつかったとか、もちろん道場で何があったという話もしてくれる。
「今日もずうっと素振りと摺り足をやらされよった。それと、どこから湧いて出たがか知らんけど、滅法強い女が道場破りみたぁなことをしよってにゃあ、先生と互角に戦いよって、あと一歩のとこまで追い詰めたがや。ま、最終的には先生が勝ったけんど、まっこと手に汗握る試合やった。ほんでそいつ、早速ここで稽古したい言うてにゃあ」
馨は少しずつ変わろうとしているのだ、と遼真には直感的にわかった。青春をもう一度謳歌しようとしているようにさえ見えた。遼真にはその姿が眩しくもあり、かつ寂しくもあった。馨の変化を間近で把握できないことについて苛立ちもあった。夏の終わりの、日毎に日が短くなっていく時期の哀愁に似ていた。
*
朝、目が覚める。少し早く起きた。隣には馨が寝ている。昨日は昼間バイトで夕方稽古だったので、ずいぶん疲れていたらしかった。ベッドに入るなりすぐに眠ってしまい、今もまだぐっすり眠っている。もふもふの長い髪がまるで大型犬の毛並みのよう。呼吸に合わせて規則正しく上下する様が愛らしかった。
遼真はごろりと横になって、馨を背後から抱きしめた。豊かな髪の毛に顔を埋める。最近手入れを怠っているらしく、枝毛がちくちく刺さった。しかしそれも悪くない。芳しい匂いを嗅ぎながら、局部へと手を忍び込ませる。
「んにゃ……ぁ、りょーまぁ……?」
しばらくして、馨は目を覚ました。寝起きの曖昧な意識下で、下半身の異常に気付く。きつく閉じられた内腿の間を、何やらぬめぬめとした棒状のものがしきりに行ったり来たりしている。
「おはよう、起こしちゃった?」
「ぁ、朝っぱらから何しちゅう……」
「いや、早く起きちゃったから」
「っ、そがぁな理由で……し、仕事は? 休みなが?」
熱い肉塊が尻からふぐりを押し分け、敏感な裏筋を擦り上げる。一旦離れていったかと思うと、すぐにまた戻ってくる。遼真が腰を振る度にベッドが軋む。挿入はしていないはずなのに、その疑似的な行為は馨を大いに昂らせた。
「ふぁ、ん……も、もっと強う、強うしとうせ」
自ずと息が上がり、腰がくねる。甘い声で続きを求めてしまう。
「りょーまぁ、ぁん、きもちえい、りょーまぁ、」
「うん……僕もだよ。熱うて、気持ちいい」
「んも、もっと突いて、ぐりぐりってしておうせ、きもちえいとこぐりぐりしてぇ」
「ここ?」
「あぁっ……そこっ、そこぉ、きもちえい、りょーまぁ……」
抱きしめられて首筋を舐められながらカリ首を擦られると堪らない。馨は甘やかな吐息を漏らす。自然と下腹部に手が伸びる。いやらしく屹立したそれを、手に包むようにして刺激する。止め処なく溢れる汁(つゆ)が掌を濡らす。
「あぅぅ、もういく、いきゆう、りょーまぁっ」
「も、少し……足、ちゃんと締めちょって」
「んゃ゛、あぁも、ぃッ、いっ、んん゛ッッ――!!」
馨は切羽詰まった声を上げる。カクン、カクン、と腰が大きく振れ、馨は達した。絶頂の際、足がピンと張って内腿にぎゅうっと力が入る。その強烈な締め付けに誘発されて、遼真も白濁を放った。馨の太腿が白く汚れた。
果てた後、遼真は息を整えつつ馨にキスをする。馨も身をすり寄せて遼真の唇を受け入れる。とろりと舌が絡み、唾液の温かさにうっとりする。眠ってしまいたくなるくらい心地よく、それでいてこの先を期待させるような濃厚なキスだった。
しかし、なぜかすぐに遼真の唇は離れていく。名残惜しげに馨は唇を突き出すが、構わず遼真はベッドから起き上がる。
「りょーまぁ……」
「ごめん、そろそろ起きんと遅刻する」
遼真は飛び散った精液をティッシュで拭き取る。己の股間も馨の内腿も拭いて綺麗にする。ゴミを捨てたら流れるように下着を履こうとするので、馨はその腕をがっしと掴んだ。遼真は驚いて目を丸くする。
「か、馨ちゃん?」
「おまん、わしの眠りを邪魔したくせに、自分だけ満足したら終わりにするが?」
「けど、馨ちゃんだってイッて……」
「わしゃあまだ足りん。あれっぱぁじゃ全然足りんちや」
「でも仕事が……」
馨は遼真に馬乗りになって強引に唇を合わせた。鼻を鳴らし、夢中になって舌を吸う。遼真も応えて舌を絡ませる。
「ふぁ……ん、なぁにが仕事じゃ。ここ、こがぁに腫らして、仕事らぁてできるがか?」
「そりゃあ馨ちゃんが触るせいやか」
既に硬度を取り戻しつつある肉茎に尻を擦り付け、馨は鼻声でねだる。遼真は困ったように眉を下げる。
「にゃあ、わしが欲しゅうないがか? ここ、入れたいろう? さっきので濡れてもうたき、準備できちゅう……にゃありょーまぁ、わしもう我慢できん……」
「けど仕事……」
遼真はちらりと時計を見、枕元にあるスマートフォンを取って電話をかけた。相手はどうやら勤務先の上司らしい。体調が悪いので午前中は休みます、と話している。
「休み?」
馨が小声で言うと、遼真は黙って頷いた。しー、と口に人差し指を当てる。馨はすっかり舞い上がった。遼真の案外厚い胸板を探り、ついと舌を這わせて悪戯する。
「んふ……あ、いえ、すみません」
妙な声が出てしまった遼真は苦い顔をして馨を押しのけようとするが、馨も意固地になって乳首を吸う。
「っ……ええ、はい、大丈夫です」
馨はにやにやしながら遼真の顔を見ていたが、それも束の間。遼真は馨を片手で抱きかかえ、いきなり体を反転させた。二人の位置がそっくりそのまま引っくり返る。遼真は馨をベッドに押さえ込み、一言二言喋った後電話を切った。少々咎めるような目で馨を見る。
「この、わりことしが」
「にゃはは、そりゃおまんの方やか。仮病使て休むらぁて」
「あーあ、そがな意地悪言うがやったら、休むのやめてまおうかな」
「えっ、や、やぁじゃ、まだ行かんでぇ」
馨が子供のように駄々を言うので、遼真はくすりと笑った。
予定通り午後から遼真は仕事に行ったが、上司にも同僚にも、挙句の果ては後輩にまで、酷く疲れているみたいだが大丈夫かと大変心配されたのだった。しかも、遅れて行った分遅くまで残業する羽目になった。
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