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第六章 姫初め 3 あけまして

 はっと目を覚ました。勢いよく起き上がると、腰がズキズキ痛む。隣に遼真はいない。ふと窓の外を見ると、ちらちら雪が舞っていた。道理で寒いわけだ。くしゃみをすると、エプロンを着けた遼真が姿を見せる。 「おはよう、馨ちゃん」 「ん……あけまして?」 「おめでとう。煙草、ほしいの?」  寝惚けて見当違いの方向を探していた馨に、遼真は煙草を一本差し出した。咥えると、丁寧にライターまで出してくれる。火をつけて、朝一の一服。至福の一時。 「……っはぁぁぁ……うまい。やっぱりこれじゃのう」  そう満足そうに言う馨の声が、ガサガサにひび割れたしゃがれ声だったので、遼真はくすりと肩を竦めた。 「おまん、何笑っちゅう」 「いや、ごめん。だって声がさ……」 「ふん。誰のせいやち思っちゅうがよ。さんざ抱き潰しくさって。しょうまっことだれたぜよ。腰も立たんわ」 「けど、馨ちゃんかてにゃんにゃん言うて……あいたっ」  昨晩のことが思い出され、馨は真っ赤になって枕を投げ付けた。ちょうど顔面にヒットした。遼真は枕を抱いてへらへら笑う。 「ごめんごめん、揶揄ったわけじゃなくて」 「ったく……何じゃあ、でれでれ締まりのない顔しくさって」 「そんなことないって。ああ、そうだこれ、年賀状届いてたんだ。馨ちゃん宛のもあるき、持ってきたんだった」  遼真は思い出したように葉書の束を取り出した。宛名を見て、数枚を馨に手渡す。 「はぁ、わしにもこがなもん来るがや」 「住所教えたからでしょ。馨ちゃんからは出したの?」 「んー? どうやったかのう」 「お返事書かんと」  煙草は咥え、年賀状を一枚ずつ捲って読んでいく。両親から一枚、祖母からも一枚、道場の先生や、そこで親しくなった人からも届いている。その中でも一際目立つ、ポップな手書きイラストが添えられた、なかなかに手の込んだ一枚があった。 「かわいいね、それ。誰から?」 「あー……ほら、前に言うたやか。道場破りみたぁなことしちゅう滅法強い女がおったち。そいつと、まぁちっくと仲良うなってにゃ。時々、飯食うたり飲んだりしちょって」 「そうなんだ」 「わしゃあなかなか筋がえい言うて褒めてくれるし、時々稽古もつけてくれるがよ。えいやつじゃ」  馨は肩を揺らして豪快に笑う。 「けんど、返事書かないかんにゃあ」 「それなら、ちょうど余ってる葉書あるから、後で用意しておくよ」  さて、と遼真は立ち上がる。 「お雑煮作ったき、食べよう。おせちもあるき」 「ほう、なかなか気が利くのう」 「いつも通りでしょ。早う準備して来てね。ちゃんと服も着るように」  言われて、馨は自分の体を見た。昨晩寝た時のまま、全裸であった。胸の蕾が真っ赤に腫れていて、忌々しいやら誇らしいやら、複雑な気分になった。

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