45 / 61
−3−
僕も賢人くんもゲイバーは初めてで、どの店に入るか決めかねていた。しばらく歩いて、カフェのような外観のお店に入ることにした。
「こういう所、初めてですか?」
店員さんはお見通しだ。
「あ、はい···」
「取って食べたりしないから、分かんないことがあったら聞いてね」
「ありがとうございます」
話しているのは僕なのに、ずっと賢人くんの方を見ていた。賢人くんはまだ未成年なので、ソフトドリンクのメニューを貰った。
「こんなにいるんですね、ゲイの人」
賢人くんは店内を見回して言った。
確かに平日の夜とは思えない人の多さだった。
「そうだね。なんか落ち着かないや」
「俺もまだ緊張してます」
僕はモヒート、賢人くんはコーラに決めて、唐揚げやポテトといった軽食も一緒に頼んだ。
5分も経たないうちに飲み物が運ばれてきた。相変わらず店員さんは賢人くんの方ばかりを見ている。
少しだけ嫌な気持ちになって、鞄の中からスマホを取り出すと実さんから着信が何件も来ていた。
「ちょっとごめん、電話してくる」
「分かりました」
店の外に出て電話をすると、すぐに繋がった。
「もしもし」
「···」
「実さん?」
「···俺に隠してることないか?」
声から怒っているのが伝わってくる。
「怒ってますか?」
「いや、正直に話してくれたら怒らない」
ー絶対怒るやつだ···
「あの···実は努の従兄弟に頼まれて、ゲイバーに来てます」
「何で昨日言ってくれなかったんだ?」
「余計な心配かけたくなくて···」
「結局かけてるだろ」
「ごめんなさい···」
いつの間に賢人くんが後ろに立っていた。
ーややこしくなるから座っててよ···
「彼氏さんですか?」
「うん。もうちょっとで終わるから」
「噂の従兄弟か?」
「そうです」
「スピーカーにしてくれ」
「なんでですか?」
「いいから!」
言われた通りスピーカーにして、賢人くんにも聞こえるようにした。
「初めまして、純の彼氏の堀内実です」
「初めまして、純さんのとこに泊めさせてもらってる柏木賢人です」
「賢人くんが純にゲイバーに行きたいって頼んだのか?」
「そうです。俺ゲイなんで」
「···」
実さんは黙っている。
「堀内さんってノンケですよね?俺といた方が純さん幸せだと思いますけど」
「賢人くん、ちょっと何言ってるの?」
「純に手出したら分かってんだろうな」
今まで聞いたことのない低い声で実さんが答えた。
「やれるもんならやってみてください」
そう言って賢人くんは電話を切って、店内に戻っていった。
ーなんでこうなるんだよー!
ともだちにシェアしよう!