2 / 22

第2話 闇の中で

 暗い気持ちを拭うため、音楽を聴きながら家路を辿っていると、どこからか、小さな鳴き声が聞こえた。  右耳のイヤホンを取り、もう一度耳をすませてみる。 「ニャー」  か細いが、やはり聞こえる。音の基へと視線を向けると、そこには闇と同化するような真っ黒な身体に、まるで月のように鮮やかな黄色い瞳を持った黒猫がポツンと佇んでいた。段ボールに入っているため、恐らく捨てられたのだろう。  どうしてこんなことができるのだろうか。人間はどうして自分とは違う存在を簡単に捨てるのだろうか。  でも所詮、自分もそんな汚い人間の一人だ。お金や時間、手間など現実的な問題ばかりが浮かんできて、黒猫を拾うという選択ができない。  罪悪感を感じながらも、歩みを進みはじめた時、ふと、近くを通った女子高生の会話が聞こえてきた。 「うわ、あの猫真っ黒だ。これじゃインスタ映えしないね」 「ほんとだー。なんか黒猫って不吉なイメージもあるし怖いよね。だから捨てられたのかな?」 「やっぱ、猫買うなら普̀通̀に̀茶色とか白とかの方がいいよね!」 「間違いないわ〜」  スマホをいじりながら、互いの顔も見ずに会話する二人の少女は、思いやりの欠けらもない言葉を吐き捨て、黒猫の前を通り過ぎて行った。  ふつふつと怒りが湧いてくる。  —普通ってなんだよ。SNSのことばっか考えて、頭が空っぽなお前らが、なんで普通を決めるんだよ。  なぜだか無性にイラついた。力強く拳を握りしめながら、ずんずんと歩いてきた道を戻る。気づくと黒猫の目の前に立っていた。  黒猫と視線を合わせるように膝を曲げ、黄色い瞳に問いかける。 「お前も一人ぼっちなのか……。俺と一緒に来る?」 「……ニャー!」  黒猫は少し上を向きながら、口を大きく開け、元気に鳴いた。その様子に、誠は思わず目を細める。  冷え切った心の中に、暖かい風が通り抜けるのを感じた。  誠はとりあえず黒猫を連れて帰ることにした。ネットで調べればどうにかなる、そう思ったのだ。  しかし、現実はそんなに甘くなかった。誠が黒猫に触れようと手を伸ばした瞬間、黒猫は激しく威嚇しはじめる。 「ちょっ! 暴れるなって! 抱っこしないと家連れてけないだろ!」 「ニャー! ニャー! ……シャーッ!」  この世の終わりかのように威嚇する猫に、誠の心は既に折れそうだった。  —なんだよ…。お前も俺のこと嫌いなのかよ。    今日はとことん悪い方に思考が行ってしまう。猫相手に馬鹿らしいとは思いながらも、誠はなぜか寂しい気持ちになっていた。夜中ということもあるのだろうか。まるでこの世にひとりぼっちのような、そんな喪失感が身体全体を埋め尽くす。しゃがみこみ、ダンゴムシみたいに身体を丸め、寂しさを埋めるように自分を抱きしめた。 「どうかしたの?」  突然、闇の中で明るい太陽のような声が聞こえた。 「……え?」  顔を上げた瞬間、誠はフリーズしてしまう。  あろうことか、闇を切り裂いたのは大嫌いな隣人だった。

ともだちにシェアしよう!