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お仕事紹介いたします
「おら、もっとケツ突き出せよ」
目の前の丸く白いお尻をグニグニと揉み、指を強く食い込ませながらそこをグイと左右に大きく割り開く。
響いた俺の声に従うように、組み伏せられ崩れかかっていた体は辛うじて腰だけを浮かせた。
よくできましたと言わんばかりに脇腹をそっと撫でてやれば、括れたウエストをくねらせながら体はまた崩れていく。
その度に腹の下に通した腕で強引に膝を立てさせては胸を背中を、脇腹を指の先でなぞった。
しっかりと深く繋がった場所からは、グジュグジュとやけに粘着質の音が響く。
周囲をさりげなく窺いながら、俺は僅かに体の角度をずらした。
光の位置が悪いのか、彼女の艶かしい背中に俺の影が入っている事がやけに気になる。
挿入したままのその動きで当たる場所が変わったのか、クンクンと子犬のように喘いでいた彼女の腕がガクリと一気に力を失った。
辛うじて両肩をシーツに着けてバランスは保っているものの、腹の下を通る腕にかかる重みが徐々に増している。
もう自力で膝を立て腰を上げているのも限界なのかもしれない。
完全に脱力してしまってる腕を捻るような事にならないように注意をはらいながら、俺はグイと彼女の肩を引き上げた。
さも少しイラつき、それが力任せの行為に見えるようにと肩を掴んだ指先を不自然な角度に開けば、二の腕に浮かぶ血管が強調されるように膨らむ。
「ほら、まだまだ寝んねには早いんだよ。もっと楽しませてくれんだろ」
羽交い締めのような格好で彼女の熱を徐々に上げていく。
耳朶を舐めるフリをしながら、泣き出しそうな声を上げる彼女に『体重、目一杯かけてくれて大丈夫だからね』と囁き、中を抉る動きを大きくゆったりとした物から早く強い物へと変えた。
さすがに俺も息が上がり、首筋を汗が滴る頃になってようやく、視線の端にチラリとオッケーサインが見える。
(さすがに俺も彼女ももう無理だっての。ったくこの現場...どんだけ尺欲しいんだよ)
「ほら、もっと良くしてやるからイイ声で啼けよ」
肌同士が激しくぶつかる音をわざとらしく響かせながら、俺はようやく自分の快楽を追った。
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「ごめんね、だいぶ酷くして。痕、残っちゃった...痛くなかった?」
まだシーツの上に力なく横たわったまま息を整えようとしている彼女に、俺はそっとガウンを掛ける。
「ううん、全然よぉ、気にしない気にしない。アタシ、普段もっとハードな事やってるんだし。今日なんて挿入時間が長かったってだけで、他は結構優しい現場だもん。っていうかさ、カメラ止まった途端ほんとに人格変わるよね。普段でも結構Sキャラ多くない?」
「そこはほら、お仕事だし。俺、こういう顔でこういう声だからさ、なんかギャップ萌え的な? とりあえず、Sだったり冷酷だったり、そういう系のオファーが多いんだよね...。あ、そうそう、今日の撮影アリちゃんとだって聞いたからさ、またチーズケーキ買ってきた!」
「ほんとっ!? いやん、ありがと~。前に差し入れで持ってきてくれた店のだよね? んもう、ほんとに勇輝くんて優しいんだからぁ...大好き!」
マネージャーが持ってきた水を口に含みながら、彼女はカラカラと明るく笑った。
ようやく残っていた熱も鎮まってきたのか、ゆっくりと体を起こす。
そんな彼女の笑顔につられるように俺も笑いながら、冷蔵庫に入れてあったケーキの箱を差し出す。
「今日はピンクのがお薦め。先週発売になった新作なんだよ。キルシュとシロップに漬け込んだサクランボが入ってるの」
「勇輝くんさぁ...マジでアタシと付き合わない? 顔はほんとうっとりするくらい綺麗だし、体はイイ感じにマッチョだし、声はエロいしエッチ上手いし」
「うん、ごめんね。俺もアリちゃんの事大好きなんだけど......」
「わかってる、わかってる、皆まで言うな。『好きだけど愛してない』でしょ? それもう、ほんと聞き飽きたって。やっぱりアレがいいの? ......ま、いいっちゃいいか...アレはアレでA級だもんね。勇輝くんは特Aだけど」
遠慮なくケーキを摘まみ上げる彼女に、特に何も答えずただ笑みを向けた。
「あ、そうだ! 監督、最後の顔射、量少なくなかった? ちょっと3回目だったし、途中出そうなのやり過ごしてたから、ちゃんと出きったかどうかの自信が無いんだよね。もし撮り直すなら、5分くれたら復活するけど」
「大丈夫、大丈夫。あれだけ飛んでりゃ文句なし。じゃあ勇輝はこれでオールアップね、お疲れさん。アリちゃんはこの後いかにも勇輝に弄ばれまくってクタクタ~な顔でインタビュー撮るから」
奥に置いてあったガウンに袖を通し、念の為にモニターで映像を確認しながら、俺は私服のポケットに入れておいた携帯が気になって仕方なかった。
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辻村勇輝、ついこの間26歳になったところ。
職業は、スカトロとハードなSM以外、プレイはわりとなんでもこなすAV男優。
幼く見える丸顔と少し低めの掠れた声、そして顔には不釣り合いだと言われる筋肉質の体型に、体型通りのハードファックで最近は女性のファンが増えてきた。
優しい愛撫に激しいピストンてのが、女性の求めるセックスに合ってたらしい。
ここのところは売れっ子の女優さんから直々に指名をもらう事も多く、またビデオ以外にもグラビアの撮影も増えていて、ありがたい事にかなり忙しくさせてもらっている。
現在は当然独身。
でも、恋人というか...同棲相手はあり。
正直、メッチャ惚れてる。
かなりメロメロで完全に骨抜き。
まあこれは、撮影現場では有名な話。
というか今更一切隠すつもりなんて無いから、雑誌のインタビューなんかでもガッツリのろけまくってたり。
最近では不思議なもので、そのインタビュー自体が受けて更に仕事が増えたりもしてる。
というわけで仕事が終われば、どれほど撮影がハードでも酒の誘いがあろうと、基本寄り道もせずに俺は真っ直ぐ家に帰るのです...だって、愛しのダーリンが部屋で待ってくれているんだから。
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映像チェックを終え、シャワーを浴びて私服で出てくると、周りからは『ほぅ』とため息が聞こえた。
今日はわりとお気に入りの細身のデニムに、コットンのライダースジャケット。
まあそこまで洋服には拘らないから、基本は着心地重視だ。
「ん? 何?」
「いや、勇輝くんて、なんでこの世界来たのか時々不思議になるんだよぉ。アイドルとか俳優とかさ、そっち行けば良かったのに」
「俺、今これでもちゃんと俳優やってますよ」
スタッフからの言われ慣れた言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。
まあ実際、街中を歩いていてそんな声をかけられることは少なくない。
「ほら、俺エロい人だから。叩くと埃がたっぷり出る体だし。それに調子に乗って華やかな世界なんて目指しちゃったら、足許とかガンガンに掬われそうでしょ?」
「いやいや、勇輝くんだったら十分調子に乗ってもいいレベルだってば...」
特に芸能界なんて物には興味は無い。
別にAV男優という仕事に興味があったわけでも無いんだけど。
早いうちに親に捨てられた俺は、人様に胸を張って言えないような仕事もしてきた...それは生きる為に。
やってきた仕事を決して恥じてはいないけれど、だからと言って堂々と言っていい類いの内容ではないし、何より赤の他人に興味本意であれこれ勝手にほじくり返されるのは正直気分の良い話ではない。
俺は『いや、でも...』と話を続けようとする助監督の話を聞き流しながら、スマホの電源を入れた。
LINEのアイコンをタップし、急いでページを開く。
『撮影のヘルプで、6スタに行ってます』
そんな短いメッセージを読んで、しばしキョトン。
撮影のヘルプって?
「ねえねえ、6スタってこのビルの3階だっけ?」
「そうだよ。ああ、そうだ...みっちゃん来てるんだった。ごめん、忘れてて」
「いいよ、いいよ。大丈夫。じゃ、向こうの撮影見学して帰りますね。お疲れさまでした~」
「お疲れさん。じゃあ次は...明後日か。またよろしくね。今度のは勇輝くんメインの女性向けだから。甘くエロくよろしく~」
「了解で~す」
俺は普通のマンションとさほど変わりのない扉を開けてスタジオを出た。
目の前の階段をカツカツと上がっていく。
別に専属というわけではないけれど、俺が今主にお世話になっているこの制作会社は、自社ビルがそのまま撮影スタジオを兼ねていた。
事務所兼倉庫が1階と2階。地下にはハードなプレイにも対応できる本格的なSMルームと、学校だの病院だのが舞台になった時の為の少し広めのスタジオ。
そして、3階と4階は、スタッフの仮眠施設も兼ねた、普通の部屋風に作ってある。
台所では料理もできるし、テレビもレコーダーもパソコンもすべて使用可能な状態。
まあリビングセットだけは、和風だったりゴージャスだったりとシチュエーションによって外観が大きく変わるから、最初から2つ用意してある。
俺は中の様子を窺いながら、そっと寝室セットのドアを開けた。
「おはよ~ございま~す」
囁くような声で中へと入っていく。
入り口のそばでは、ガウン姿のベテラン男優さんが眉尻を下げ、困った顔で椅子に座っていた。
「おお、勇輝くん」
「おはようございます。なんか、急にみっちゃん呼び出されたって聞いたんで見学に来たんですけど...」
「...ああ、ほんと悪い。たぶん俺のせいだわ。相手役が今日デビューでさ、ものすごい緊張してる女の子だったんだけど、なんせ俺の見た目でビビっちゃって」
長谷川さんというそのベテランさんは、心底申し訳なさそうに頭を下げた。
確かに真っ黒に日焼けした肌にボディービルダーのような体は、一見すると『怖い』『いかつい』と感じるかもしれないが、ちゃんと見ればものすごく優しい表情の二枚目だ。
テクニックも体力も抜群で、俺達男優はその真摯で穏やかな性格を含めみんなが尊敬しているし、女優さん達からもかなり人気が高い。
「いやぁ、デビュー作で長谷川さんが相手してくれるなんてすっごいラッキーな事なのになぁ...」
「まあ、彼女の事務所も一応そう思ってくれてるらしくてな、なんとか撮影続行させようと説得はしてんだけど、なんせ控え室に籠城しちゃったもんで」
「ああ、それでみっちゃん呼んだのか...」
話をしながら、部屋の中央に置かれたベッドを見つめる。
しばらく二人とも黙って主役の登場を待っていると、奥の扉が静かに開いた。
「心配しなくても大丈夫。みんな怒ってないからね。初めてなんだもん、怖くなって当たり前だよ」
20才を過ぎているはずなのだが、そこに現れたのは高校生にしか見えない女の子。
売り出す側もそれを意識してるのか、ブレザーにネクタイという制服風の衣装を着ている。
隣には、恋人を労るように肩をそっと抱いた優男。
二人はゆっくりと中央のベッドに腰掛ける。
「長谷川さんがあの子と絡んだら、なんか淫行で捕まりそうですね」
「うるせえよ。今日は教師と教え子って設定だから別にいいんだって」
「ん? 結局男優交代じゃないんだ?」
「そんなわけないだろ。まあ、それができればほんとは撮影進めんの楽だし、絶対売り上げも伸びるだろうから会社も大喜びだろうけどな...みっちゃんが本番するわけねえだろ」
「ですよね~」
俺はベッドの二人を見つめながら、みっちゃんこと......愛しのダーリン、坂口充彦に笑顔を送っていた。
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