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お仕事紹介いたします【2】

  「ほら、ちゃんと部屋から出てこれた。良く頑張ったね...もう怖くないよ」 優しく髪に指を通し、そこにそっと唇を落とす。 まだ少し強張っている肩をゆっくりとさすりながら、彼女の額にコツンと自分の額を合わせた。 「そうだ。ね、ちょっとチューしてみようか?」 戸惑うように目を泳がせる彼女の唇に、触れるだけのキスを落とす。 大きな手でその彼女の顔を包み込み、しっかりと目を合わせてもう一度キス。 瞼にも鼻先にも、擽るように唇を押し付ければ、傍目にも彼女の体から無駄な力が抜けていくのがわかった。 何度もそんなキスを繰り返しながら、いつの間にかみっちゃんの指は彼女のネクタイをゆっくりと緩め、首筋をなぞり上げる。 「相変わらずの手際の良さだなぁ...どうよ、妬ける?」 長谷川さんが、いたずらっ子みたいな顔で俺の目を覗き込んできた。 その目を真正面から受け止める俺も、たぶん同じような顔をしてるだろう。 「そんな顔に見えます?」 「いやぁ、これが全然」 「でしょうね~。別に強がりとかじゃなくね、本当に妬いてないですもん。て言うか、『あの子、今日は長谷川さんが相手ってだけでもラッキーなのに、その上みっちゃんにまでキスしてもらって、おまけに気持ちよくしてもらえるなんて幸せモンじゃ~ん』くらいに思ってます」 「ほんと変なカップルだなぁ、お前ら。お互いさ、こんな仕事してんのとか嫌になんない?」 「うーん...詰まる所、俺らはこの仕事で出会ったわけで。二人とも仕事だってきっちり割り切ってるつもりだし、別に嫌にはなんないかなぁ。みっちゃんは本番しなくなりましたしね。俺に操立ててる...なんて言われてますけど。」 「お前の方は、絶対女優にアナル舐めさせないらしいしな」 「させないですよ。俺は方は間違いなく操立ててますんで。俺のケツ舐めていいのはみっちゃんだけですから」 俺達の話し声の後ろで、押し殺そうと我慢しながらも飲み込みきれないあえぎ声が聞こえ始めた。 見れば、みっちゃんの大きな手が女の子のスカートの中に差し入れられている。 そして女の子の手は、みっちゃんの股間の辺りをもどかしそうにさ迷っていた。 真っ白な寝室の中央で、お互いの唇を離す事なくぎこちない愛撫を続ける女の子。 カメラが回っていないのが勿体なく思えるくらいにそれは爽やかで初々しくて、そしてエロティックだった。 「さすが、みっちゃんだねぇ。あの子、たぶんもうグチョグチョだろ」 「でしょうね。長谷川さん、あと10分もしないうちに出番きますよ」 「わかってるわかってる。ちょっと向こうで勃ててくるわ」 女の子の声はいよいよ大きくなってきた。 みっちゃんの指の動きはスカートに遮られて見えないけれど、耐えきれないとばかりに女の子の脚はその手を必死に挟み込もうと強く閉じられている。 これは10分もかからないかもしれない。 長谷川さんは慌てて立ち上がり、一旦控え室へと向かった。 「気持ちいい? うん、気持ちいいね。でもね、これからミユちゃんとエッチする人は、俺なんかよりもずっと大切に、ずっと気持ちよくしてくれるんだよ。だから何にも心配いらない...安心していいんだからね」 小さく痙攣する体を宥めるように強く抱き締めながら、みっちゃんは彼女の耳許に甘く優しく、ずっと暗示をかけ続けた。 ********** 「お疲れさま」 「わっ、勇輝っ!?」 スタッフから感謝の言葉を受けながらスタジオから出てくるみっちゃんを待ち伏せし、扉が開いた瞬間頬っぺたに冷えた水のボトルをピタッと押し付けた。 「うぉーっ、ビックリしたぁ。勇輝こそお疲れさま。もしかしてずっと待っててくれたの?」 「まあね。でも見学してたから、そんなに退屈はしなかったよ」 「ごめんな。ほんとは家でメシ作って待ってるつもりだったんだけど...急に呼び出されちゃって」 「ん? ごめんの意味がわかんないし。仕事してたんだから当たり前じゃない? あ、なんなら久々に外でなんか食って帰ろうか?」 俺はみっちゃん...いや、充彦の腕に自分の腕をしっかり絡めた。 ほんとなら、ごめんて言わなきゃいけないのは俺の方だ。 俺と付き合う事になって充彦は、AV男優でありながら本番NGという、死活問題ともいえる選択をした。 自分のペニスが入りたいのは俺の中だけだからと。 知り合った当時の充彦は、間違いなくAV業界一の売れっ子でアイドル男優の先駆けの一人だった。 端正でいて、それでも親しみやすさを併せ持った顔。 190センチを超える身長で、小さな顔に長い手足、そして何より...温かくて大きな手。 甘く優しい声で囁けば、女はそれだけで濡れるとまで言われていた。 元々の雰囲気が優しすぎるせいもあってハードな内容の作品にはあまり出ず、優しく女の子を労り愛するその行為には『ヒーリングセックス』なんて二つ名が付けられるほど。 また今日のように、まだ撮影に慣れていない新人に付けるならみっちゃん!と誰もが口を揃えるくらいに雰囲気作りが上手い事でも有名だった。 絹に触れるような指使い、蕩けるようなキス、優しくも激しい腰使い。 そんな充彦に夢中になる女優は決して少なくなかった。 そして、男優である...俺も。 元々俺は男女問わず体を売って金を稼いでいた。 親が俺を残して姿を消した15の頃からだ。 本当ならば役所にでも駆け込み、助けを乞うのが正解だったんだろう。 けれど俺はそれをせず、自分の体を売ってでも一人生きていく道を選んだ。 今考えてみれば、人肌が恋しかっただけなのかもしれないけど。 俺に触れる人達は不思議とみんな俺を大切にしてくれて、その仕事を怖いと感じた事すら無いし、ありがたい事に金に困った事も一度も無かった。 そして、そんな生活を続けていた中で気づいた事がある。 俺はどちらかと言うと、『抱く』よりも『抱かれる』方が好きだということ。 先天的にゲイだったのか、ただケツから得られる快感に負けたのか、それとも......『愛する』よりも『愛されたい』と願っていたのかはわからないけれど。 元々自分の意思で性欲を発散したなんて事も無かったけど、この世界に入ってからはそんな欲を感じる余裕すら無くなった。 例えその気が無くたって無理矢理勃たさなくてはいけないし、何より女優さんをカメラの前でいやらしく気持ちよくさせてあげなければいけないと気持ちが常に張り詰めていたからだろう。 わざわざ他にパートナーを欲しいと思うほどの気力なんて残ってなかった。 ところが、初めて3Pの仕事で現場が一緒になった俺は、一瞬にして充彦から目が離せなくなった。 胸が締め付けられて、頭の中がボーッとして... 女優さんを可愛がる手つきが、首筋を舐め上げる舌の動きが、俺をひどく欲情させた。 あの指で触れられたい、唇を深く合わせ、舌を絡ませたい。 大きなペニスで身を貫かれ、激しく揺さぶられて涙を流す事ができれば、それはどれほど幸せだろうか。 俺と充彦ではそれぞれ求められるシチュエーションが違う為、それほど頻繁に現場が重なる事はない。 そしてその回数の多くない共演の中で、俺は女優さんに対してではなく充彦の存在に興奮した。 空き時間に少し話をすると、その話し口調がまた恐ろしく心地良かった。 優しい声に耳を嬲られている気分になり、それだけで勃起しそうになった事もある。 身よりと言えるような人間がいないなんて境遇が似ていた事もあったからなのか充彦は俺をすごく気遣ってくれて、しょっちゅうメールや電話をくれるようになった。 そして話す回数が増えれば、当たり前のように俺達の距離は自然と近づいて。 他人に感じた事の無かった『恋しい』という気持ちを知り、一緒にいるのが辛くなったこともある。 俺と違い、充彦は完全にノンケだったから。 気持ちが悪いと拒絶されるのだけは嫌だったし、だからといって俺の方へと充彦を引きずり込むわけにはいかないと、必死に気持ちに蓋をしてきた。 そして自分の思いから逃げ回っていた俺を、充彦が強く抱き締めて言ったのだ。 『勇輝が好きなんだ。大切にするから...過去も今も未来もちゃんと丸ごと受け止めるから、俺の物にならないか?」 そんな思いを受け止め初めて二人で朝を迎えた日、俺の前で充彦は事務所に電話をかけた。 『収入が減っても仕事が減っても構わないから...今後一切本番は...例え疑似でもしません。いや、なんならこのまま引退になっても構わない』 その電話以降、充彦は本当に本番はまったくしていない。 俺を満足させる為以外では勃起もしないのだと笑っていた。 「充彦、好きだよ...」 少し先を歩く大きな大きな影に向かって呟く。 「ん? 知ってる。俺も勇輝がすっげえ好き」 くるりと振り返って俺を見る目は、さっきの女の子を見つめていた時よりもうんと優しくて、うんといやらしい。 「外で食べないでさ...」 思わずその大きな体に向かって飛び付く。 充彦は俺の体をしっかりと受け止め、そして強く抱き締めてくれた...そう、あの日のように。 「やっぱりね、弁当かなんか買って、家で食べようよ? 俺さ...早く二人きりになりたい」 「そんなこと言われちゃうと、俺は即エッチしたくなっちゃうんですけど? なんか誘われてるみたいじゃん」 「誘ってるつもり~。だってさ、今すっごいしたいんだもん」 「今日はアリちゃんと結構激しく絡んできたんだろ? だいぶ疲れてんじゃないの?」 「平気。だって今日もケツは誰にも触らせてないから。これは充彦のだもん」 そう言った俺の体が、息が詰まりそうなほど強く抱き締められた。 その力強さが嬉しくて、なぜだか泣きたくなる。 「んふっ、あんま可愛い事言われたから勃っちゃったじゃん。俺、まだ今日1回も出してないし」 「どっかその辺で先に抜いていく? なんならこの先の公園の便所、綺麗だよ?」 「お前はなんでそんな事知ってるかなぁ...いいや、家まで我慢するっ! もうね、勇輝がカラッカラに枯れてザーメン無くなるまで、俺ので目一杯気持ちよくしてやるんだから。覚悟しとけよ」 見かけたコンビニで適当に弁当とラーメンを買い、急いでタクシーを止める。 (今日はきっと、朝まで眠らせてくれないんだろうな...) 甘くて優しくて、そして激しい充彦の本気のセックス。 思い出すだけで頬が熱を持つ 俺は隣の充彦の指に自分の指を絡めながら、温かい肩にコトリと頭を預けて静かに目を閉じた。

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