299 / 420

FACE DOWN【18】

自分の意思でここに触れるのはいつぶりだろうか。 少なくとも、充彦と付き合ってからは一度も無いはずだ。 充彦はそれを愛撫の一つとして考え、自分の手で拓く事しか望まなかったから。 客を取って抱かれていた時も俺を指名するのは大抵遊びに慣れている人ばかりで、彼らもまた自らが準備することを良しとしていた。 おそらく理由は充彦と同じだったのだろう。 その頃の俺にはそれがどういう事なのかよくわからなかったし、普通客を取るボーイは部屋に招かれる前にはそういう準備を終わらせておく事が多いと知ったのは後になってからだ。 ......ああ、あの人だけだ...阿部さん。 俺をAVの仕事に引っ張ったあの監督は、時々俺が自らの手で丁寧に後孔を解す姿を見たがってたっけ。 そういえばイメージプレイだのコスプレだのオナニーだの、なんだかあの人にはずいぶんと色々な事をさせられた気がする。 持っている独特の雰囲気と人懐こさ、何よりウィットに富んだ会話が好きで、不思議とそんな事に付き合わされるのを嫌だとは思わなかったけど、今にして思えば阿部さんはあの頃から俺を男優にしたかったのかもしれない。 ......それは無いか、ただの性癖だな。 充彦のモノをしゃぶる力を弛めないように気をつけながら、同時にゆっくりと自分の中へとめり込ませる指先に神経を集中させる。 今俺の咥内で暴れ回るモノを毎晩のように受け入れているせいか、入り口はほどよく柔らかで、それは思っていた以上に容易に中へと吸い込まれていった。 ゆっくりと襞を押し拓き、快感と興奮を高めながらローションを馴染ませ...... それだけで熱く湿った粘膜がキュウキュウと自分の中指を締め付ける。 「ふぅっ...んっ......」 想像していたよりもずっと高い体内の温度に、鼻からしかできない呼吸には自然と甘い声が含まれた。 充彦が放出を望むのと同様に...いや、きっとそれよりももっともっと強く、俺は犯されたいと思っている。 だからこれほどまでに中が熱を持ち、うねうねと形をその為に変える瞬間を待っているのだ。 それに気づいた瞬間、不意に粘膜がうねるように中指を締め付けた。 「んふっ...ん......」 思わず充彦のモノを口から吐き出してしまう。 辛うじて握りしめたままの竿への動きを止める事はなかったけれど、口淫を続けることはできそうになかった。 ひたすら充彦を悦ばせるなんて言いながら、結局はこのまま口の中に出されるのが嫌になったのかもしれない。 この大きな物が収まるべき場所は口なんかじゃない。 ...もっと熱い粘膜の中へ...... 欲しくて欲しくて、今自ら必死に触れている粘膜を擦り切れるほど擦られたくて、許しを乞わなければいけないほど奥を突き上げられたくて仕方なくなっていた。 早く受け入れたくて、性急過ぎるほどの動作で中指の隣に薬指も添えて乱暴に中をかき混ぜる。 ...まだダメだ...まだ無理...でも欲しい...... 焦りにも似た気持ちで、少し強引に指の本数を増やそうと体を捩る。 口淫を諦めた俺が何をしているのかわかったのか、突然ポンポンと大きな手が頭を叩いてきた。 「勇輝、お尻こっち向けて」 「...でも今日は俺が......」 俺がすべてやると言ったんだ...そう言う前に、充彦が優しい笑顔で首を横に振る。 「この3年ほどはお前にそこ触らせてない。だから、自分じゃなかなか上手くできないだろ? 俺も早く入りたいの、突っ込みたいの。やっぱさ、口に出すのは嫌なんだよ。それにな、そこは解す為に触るんじゃなくて、お前をトロトロに蕩けさせる為の大切な愛撫なんだよ、俺にとっては。二人で気持ちよくなんなきゃ意味無いだろ?」 そう言う充彦の顔を、うっとりと見つめてしまう。 そうだ...二人で気持ちよくなりたい...... 無理矢理押し込んでいた指をゆっくりと抜き取っていく。 俺に向かって差し出された手の上に、ポンとローションのボトルを乗せた。 「勇輝が全部やってくれるってのもなかなか珍しくて面白いし、それはそれで興奮するんだけどさ...結局俺達にとっては、いつものセックスが一番幸せじゃね? 今日みたいな日だからこそ俺は、二人で幸せなセックスしたいんだ。この後はちゃんとまた勇輝に任せるから、ここだけは俺にさせてね」 小さく頷き、俺は充彦の方へとケツを向ける。 充彦の腕がガッチリと俺の腰を掴み、ひょいとまた体の上に乗り上げるように持ち上げられてしまった。 ちょうど今、俺の孔はその目の前に曝されている。 恥ずかしいのか嬉しいのか、そこがキュンと窄まるのがわかる。 「だいぶいい感じになってるじゃん。すぐに俺のが欲しくて欲しくて仕方ないってくらいトロトロにしたげるから、勇輝は俺のが萎えないようにちゃんとチュッチュしといて?」 「なんもしなくたって、萎えるわけないくせに」 「ま、萎えないけどね~」 もうとっくに充彦が欲しくてトロトロなんだけど...それは口にせず、目の前で催促するように小さく震える先端をチロリと舐めた。 その瞬間、ズブズブと節くれた長い指が一気に中を抉ってくる。 たったそれだけの事なのに...... 俺の体は小さく痙攣し、軽いエクスタシーを迎えていた。

ともだちにシェアしよう!