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第2話

「まずはまともな理由を聞かせてくれる?」 「ん? なんの?」 「旅行の」 「え、一緒に来たかったから」 「梅雨前に、の理由」 「ああ……あんな、俺んち、わりとよう旅行行ってて、特に上高地は親父が好きで毎年のように行っててん。でもだんだんさ、子どもおっきなったら家族旅行もせんようなるやん?」 「……」  言ってからしまった、とリョウは思った。アヤに家族はいない。まともな親がいない。家族旅行はおろか、団らんすら経験したことがない。一般的な家族のあり方について、同意を求めるような言い方をしてしまったことを悔いた。反対にリョウの家は家族仲が良い。アヤと出会ったのだって、リョウが家族旅行でアヤの勤めるホテルに宿泊したのがきっかけだ。 「……んで、また上高地行きたいなって思って、親誘ってみてんけど、もう歳やからしんどいって言われてな……」  毎年のように家族旅行で上高地を訪れていたリョウ。ひとりで家族旅行の記憶を思い返してしみじみとしていたが、そうだ、隣にアヤがいるのを忘れていた。 「とにかく、ありがと」  とリョウが笑えば、それで万事解決。この笑顔が見られれば、自らの選択が間違っていなかったと納得できる。アヤの頭の中はシンプルだ。  上高地には特に大々的なレジャー施設やテーマパークなどがあるというわけではない。そこにはただ自然が広がるだけ。アヤは海沿いに住んでいるので、山と渓谷に囲まれたこんな風景は新鮮だ。  リョウが車を降りてすぐに向かったのはボート乗り場だ。水が綺麗なことで有名なこのあたりでは、やはりボートは外せない、とリョウが力説する。乗ってみればなるほど、透明度が非常に高い水面、の下では、これまた目にも眩しい青々とした水草が揺らめいている。ボートで揺られながらそれらをじっと見つめているだけで、随分と心洗われる気分だ。 「水触ってみ! つんめたいで!」  ボートから水面に手を伸ばし、水に触れるとリョウははしゃぐ。普段ならスルーのアヤだが、この時は素直に従ってみた。なるほど、この季節とは思えない水温で、ぽやぽやとまどろむような心地だった意識が一気に引き締まる。が、不快な類ではない。そう、ここへ来てから、全てが心地良い。

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