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「千尋? 男との経験は?」 「な……い、です」 「じゃあキスは?」 「っ、あるわけ、ない……っ」 「ふふ、可愛い」  俯きながら首を振って否定した俺に佐伯さんはクスクスと肩を揺らし、その長い指で俺の顎を引く。 「キス、してみる?」 「……っ」  整った顔立ちから思わず目を逸らす。今まではカメラ越しだったから気にしないようにしていたけど、駄目だ。この人、男の俺から見ても普通に格好いい。 「っ……」  啄ばむような軽いキス。想像していたような不快な気持ちは一切ない。でも同性とそれをしている背徳感。  でも、でも、 「んぅ……ッ!」  口内にあっさりと侵入してきた舌先。驚いてびくりと揺れた肩を優しく撫でられ、徐々に身体の緊張が解けていく。  それと同時になんだか余裕も出てきて、恐る恐る自分の舌を差し出してみる。すると優しい舌先で溺愛されるように甘く絡め取られ、なんだか褒められたみたいで頭がぼうっとした。 「んっ、ン……んん、」 「ふ、可愛い」 「っん、ン、」  この人のキス、好き、かも。  角度を変えながら深く絡むそれが心地良い。身を任せていると突然服の上から自身をなぞられる。肩を震わせて目を開くと、楽しそうに目を細める佐伯さんと視線が絡んだ。 「……ん、やっ……」 「ふふ、嫌なの?」  つつ、となぞるその指先が慣れた動作で俺のベルトを外し、ズボンと下着に手をかける。途端に恥ずかしくなって、佐伯さんの肩に顔をうずめた。 「千尋、脱げない。腰上げて?」 「うぅ、」 「見て。ちゃんと勃ってる」 「っ、言わな、で……」  外気に晒されたソレは不快で萎えるどころか痛いくらいに立ち上がっていて、それもしっかりカメラに収められる。  恥ずかしい。恥ずかしい。  でもそれ以上に、興奮してる俺がいる。 「んっ、っ……」 「声、我慢しないで」 「んんぅっ、んっ」  ゆるゆると自身を扱かれ、徐々に息が上がる。  ただの手コキでこんなに気持ちよくて、なんで。自分で扱いてる時はもちろん、彼女にされてる時だって、こんなんじゃ無かった。 「っ、な、なにっ」 「そろそろこっちも解すね」  労わるように優しくシーツに押し倒される。パチンと見知ったボトルを開け、溢れるくらいにたっぷりのローションを絡めとる指先。  その濡れた綺麗な中指がなんのためらいもなく俺の秘部に触れ、入り口をゆっくりと撫でる。  触れられたことなんかない場所。圧迫感。どうなるのか想像すら出来ない恐怖感。  気持ち、悪い、 「……っ……や、佐伯さっ、」 「痛い?」 「む、無理、やっぱ、できなっ……」  自分でも訳の分からないくらいに情けない声。泣きそうな俺に佐伯さんは手を止めて、悲しそうな顔で笑った。 「ごめんね、ちょっと強引に進めるよ」 「っ、やっ……嫌だっ、うぅッ」  長い指があっさりと俺の中に侵入してぐちゅぐちゅとかき回す。 「やっ、やだっ、きもち、わる……っ」  いつの間にか流れていた涙に佐伯さんはとっくに気付いていた筈で、それでも止めてくれない事にまた涙が溢れて目の前の細い肩に顔を押し付ける。  そんな時、佐伯さんの指がある一点をかすめる。 「ッ、んあぁっ!」  な、に……? 何……今の、何? 「ふ、やっぱり可愛い」 「やァ、な、なに……?」 「わかる? ここ気持ちいい?」  もう一度中指で押されたソコ。腰がびくりと跳ね、下半身に熱が集中していくのがわかる。 「や、やあっ、ひっ……あァっ」 「気持ちいいね。ふふ、いい子」 「んッ、あぁァっ、そこ、やあッ……んあぁッ!」 「やっぱりハジメテは大事にしてあげなきゃね」  いつの間にか薬指も加わり二本の指でぐりぐりと責められる度に頭がじんじんと痺れる。さっきまで泣きじゃくってたのが嘘みたい。さっきまで怖かったのが嘘みたい。 ただひたすら押し寄せる快感に頭が追いつかない。  じたばたとその指から逃れようとする身体を押さえつけられ、視界の隅にとらえた佐伯さんのモノ。身体がぞくりと粟立った。 「はあ、あぁあっ、」 「ふふ、エロい顔……」  たっぷりのローションで濡れ、ぴとりと入口に押し付けられたソレが、ゆっくりと俺の中に入っていく。指とは比べものにならないくらいの圧迫感。 「ひッ、や……っ、あ、あぁっ……っ」 「ッ……千尋、力抜いて?」 「む、りッ……むり、そんなん、入らないっ……」 「ゆっくり息して。大丈夫だから……そう、上手。いい子だね」  目の前の佐伯さんにしがみついてギュッと目を閉じ、言われた通りに呼吸に意識を向ける。香水の香りが胸いっぱいに広がって、何故だか少し落ち着いた。 「千尋、見て。全部入った」 「えっ、あ……うそ……っ、」  思わず顔を上げれば佐伯さんと目が合い、優しくキスを落とされる。くるしい。密着した身体が熱い。くるしい、あつい、 「ふ、可愛い……動くね」 「ッ、んっ、んあッ、」  様子見のようにゆるゆると動いていた腰が徐々にスピードを上げていき、律動の度に勝手に汚い声が溢れて顔が熱くなる。  込み上げてくるのは苦しさと、圧迫感と、それ以上の、快感と、 「あぁッ……、んん、ッ、んあア……ッ!」  これヤバい。気持ち良い。佐伯さん男なのに。俺、男に掘られてんのに。何これ。  気持ち良すぎて、死んじゃいそう。 「やあ、ッ、あぁっ、んああッ……」 「……はは、やっぱ大正解だったね」 「や、ああっ、あッ、やあ…っ、さえきさっ、」 「お前は、快楽に弱い、淫乱ちゃん」 「さえきさん、だめっ、ひああっ……、もっ、やああっ、」  突かれる度にぐちゅぐちゅと響くローションの音。涙がボロボロ溢れて止まらない。開きっぱなしの口から勝手に漏れる汚い声も、頭がおかしくなるような快感も、止まらない。 「ずっと狙ってたんだから、絶対手放さないよ?」 「やああっ、ひっ、ああぁ……っ、ああぁンっ!」 「ゆっくり、じっくり、躾てあげる……」  零れる涙でぼやけた視界。その中でハッキリ見えた、佐伯さんの唇。  弧を描いて綺麗に歪んだ赤い唇――……

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