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 助けて。 『綾斗、綾斗……』 『い、たい……パパ、』  助けて。 『気持ちいいよ綾斗、』 『やだ、やだっ、やめて……っ』 『綾斗、綾斗』 『痛いっ……! パパ、もうやだ……ッ!』  お願い。誰か、僕を助けて、 「アヤっ!」 「ッ……!?」  見開いた目から涙が零れ落ちた。  ぼやけた視界の中で、心配そうに見つめてくる竹内くん。  起き上がろうと身を捩った身体がかすかに震えていた事と、直後に腰に走った激痛に、まだぼんやりした頭で全てを理解した。 「さつえー……終わったんだぁ……」  声がかすれてる。そこら中にぶちまけられた精液の匂いが鼻につく。 「痛い? 立てる? とりあえず先にシャワー浴びましょう」 「監督……何か言ってた……?」 「……“最高だった。また撮らせてくれ”って……」 「やったあー……」  確かレイプとかそっち系の作品で有名な監督だって、撮影前に上司が言ってた。  この評価ならまた使ってもらえるはず。  レイプ物は収入も売り上げも上がるし、きっとマネージャーにも褒められてまた仕事入ってくる。  ……佐伯さんは、喜ばないと思うけど。  アヤのマネージャーは佐伯さん。  だけど上に頼み込んで、急遽別の人に変えてもらった。  佐伯さんは馬鹿みたいに優しいから、アヤがしんどくなる仕事は絶対に入れないから。 『綾斗、』 「ッ……!」 「アヤ?」 「何でもない。アヤのポーチどこ?」 「……あ、」  竹内くんが反応する前に、畳まれた衣服の上に置かれたそれを見つけ。  急いで中から取り出した数錠の封を開け、乱暴に口に放り込む。薬の味と、精液の味。口に広がる最悪な苦味。  吐き気と頭痛に耐えきれず、その場で頭を抱えてうずくまった。 「アヤ!? 大丈夫かよ! 気分悪いなら……」 「黙ってて!」 「……っ、」  パパの声が、聞こえなくなるまで黙ってて。  前の撮影の時もそうだった。  レイプの恐怖も、ブサイクと絡む不快感も。しっかり覚悟を持って撮影に挑んだのに、つい数十分前に終わった筈の撮影の事なんて一切覚えていなかった。  覚えているのは、パパに犯されるアヤの姿。  撮影が始まって無理やり押し倒された途端に、男優がパパに変わる。現場が子供部屋に変わる。アヤが、綾斗に変わる。  昔の記憶の中に閉じ込められたみたいに、あの恐怖に何度も何度も犯される。 「アヤ……やっぱもう止めましょうよ……レイプ物とかアヤには地獄じゃん……」 「大丈夫だよ、慣れてるから」 「どこが慣れてんスか……毎回泣き叫んでるくせに……」  強めの薬をもう一錠だけ口に放り込んで、ゆっくりと立ち上がる。  それでもふらつく身体を慌てて支えようとした竹内くんの手をやんわりと制して、バスルームに向かう。 「大丈夫だから、」  全部、大丈夫。  ブサイクに無理やり犯されんのは確かに地獄だけどさ、パパに犯されるのは、もう慣れっこなの。  何年もアヤを苦しめてきた幻聴と幻覚が、ちょっとだけリアルになっただけ。  だから、大丈夫。 「大丈夫じゃ……ないくせに……、」  小さな呟きに振り返れば、俯いて肩を震わせる竹内くん。  佐伯さんといい竹内くんといい、アヤの周りは優しい人が多すぎる。  やめてよ。泣かないで。 「ふふふっ。竹内くんの泣き虫~っ」 「……、」 「シャワー浴びてくるから先帰っててっ。ばいばーいっ」  やめて。  アヤのために泣くのはやめて。  まるで大切にされてるみたいって、勘違いしちゃうから。  アヤが大切にしてもらえる訳ないのに。愛してもらえる訳ないのに。  そんな惨めな思いするくらいなら、アヤは独りぼっちで闘う道を選ぶよ。

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