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第12話「キス」*樹

 電車は混んでて、人に押しやられて、蓮とは少し離れてしまった。  とりあえずつぶされないようケーキを守りつつ。 「――――…」  はー……。  なんだかな。  1人になったら、さっきのクラス会の事を思い出してしまった。  ――――……ほんと、あのゲーム。……ほんと最悪。  学校行ったら、絶対その話になるんだろうなあ……。  蓮とのキス。 …しかも、あんな、キス。  人前でなんて、ほんと、したくなかった。 「樹、こっち」  駅に着いた人の乗降りの隙に、腕を掴まれて電車の一番奥に引き込まれた。 「……ここのがマシ。結構混んでたな」 「うん。 ……ケーキだけは守ってたよ」  クスクス笑って言うと、蓮も苦笑い。 「ケーキ、ほんとはもっと色々買いたかっただろ?」 「うん。レアチーズケーキとモンブランとタルトも欲しかった」 「はは」 「また行こうね」 「OK」  言いながら、蓮はクスクス笑う。 「ほんと甘いの好きだな」 「たまーにすごく食べたくなる。あ。今度なにか作って?」 「ん?……ケーキ?」 「うん」 「そんな簡単に作れるか?」 「蓮なら出来る」 「またそういう……」  苦笑いの蓮。 「……あー、母さんがガトーショコラ作ってた気がする。あれならいけるかも」 「ガトーショコラ好き」 「今度作り方聞いとく」 「うん」 「……オレ、何でも作れる訳じゃないぞ?」 「そうかなあ? 出来ると思うけど」  ふふ、と笑って蓮を見上げると、蓮もふ、と笑った。 ◇ ◇ ◇ ◇  家について、順番に、シャワーを浴びて。  ケーキとカフェオレで、デザートタイム。 「んー、おいしいー」 「今どれ食べた?」 「チョコ。 食べてみて」 「ん」  一口食べて。 「甘…」  と呟く蓮。笑ってしまう。 「甘って… 美味しくない?」 「…オレチーズケーキのが好きだな」  「全部美味しいよ」 「あと食べていーよ」 「んー」  結局蓮は、一口ずつ味見みたいに食べただけ。  もぐもぐケーキをほおばってると、蓮は呆れたように笑う。 「……気持ち悪くなんねえ?」 「なんない。 美味しい」 「あ、そ」  クスクス笑いながら、蓮はコーヒーを飲んで。  それから。  ふ、と息を吐いて。「なあ樹?」と呼び掛けてきた。 「……ん?」 「――――……今日のキス、どう思った?」 「――――……どうって?」 「んー。……感想?」 「感想って……」  なんて答えていいか、分からない。  これを話しながらだと、ケーキが味わえない気がして。 「……ケーキ食べてからでいい?」 「ん」  頷いてくれたので、食べ続けてはいたのだけれど……。  蓮が、あんまりにじーっとオレを見てくるので。 「……食べにくい」 「ん?」 「見てないで、どっか違うとこ見てて」 「……ん」  蓮が、頬杖をついて、ちょっとそっぽを向く。 「――――……」  なんだかなあ。  ……キス……さっきの、キス。  ………感想って何……。  ……何が聞きたいんだ……。 「……蓮、もうケーキ、明日にする……」 「ん。片付ける?」 「うん」  立ち上がって、ケーキのお皿をキッチンに運ぶ。  一緒に立ち上がった蓮が来てくれて、ラップをかけて片づけてくれる。 「――――……感想って言われてもさ」 「ん」 「……だって、罰ゲーム、じゃん」 「――――……うん。てか、そうじゃなくて」 「……なくて?」 「……舌入れるキス。 嫌だった?」 「……っ」  顔に熱が集まる。 「っそんなの……嫌に決まってるし。あんな……皆、見てる前で」」 「――――……樹」  ぐい、と腕を掴まれて。  蓮の真正面に、引き寄せられる。 「――――……なに……?」 「樹のその言い方だと――――……見られるのが嫌だっただけ、みたいだけど」  顎に、蓮の右手がかかって。  その親指が、唇を、なぞった。 「……っ」  唇から、ぞく、とした感覚が広がる。    そう、言われると――――……。   そういう言い方、な気がしなくも、ないけど……。 「――――……皆の前じゃなければ、良かったのか?」 「……っな事言ってない、し」  ……ちょっと言い方、違っただけ――――……。 「――――……」    ちゅ、と触れるだけのキスをされて。  すぐ、離れる。 「――――……」  蓮の、整った顔が、至近距離にあって。  まっすぐ、見つめられて。 「――――……はー……」  なんだか、もう、力が抜けて。  ずるずる、と蓮の両腕にすがりながら、うなだれた。 「……樹?」 「……蓮……――――ちょっとこのまま……」  ほんと。  ――――……なんでこんな、顔キレイかな。かっこよすぎだよな。  もう、見慣れてるのに、急に至近距離に来られると。  ……その目で、まっすぐ見つめられると。  ……なんか。  蓮の 事しか、見えなくなる。    蓮が良い奴なのはもう、これ以上ない位、知ってて。  ……蓮がオレを、大事に、してくれてれるのも分かるから。  余計。  ――――……なんか。 「――――……」  蓮の腕を頼りに、頭をあげて。  少し、距離をとってから、まっすぐ、蓮を見つめる。   「……正直に、言う、ね」 「――――……ん」  蓮は、何を言われるのかと、少し、身構えたみたいで。  唇を少しだけ、引き結んで。じっと、オレを見つめ返した。

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